「一体、何だってんだ・・・」
キーボードの前でボヤく。
そりゃこちとらガテン系。
頭よりも体を使ってきた。
まともな奴を雇いたいって気持ちは分かるが、ここまで妙な試され方をされるとヘコむ。
算数のあとはリドル(謎かけ)ってことは、この企業はどうやら頭脳労働らしい。
いやいや、ホワイトカラーだっていちいち謎の暗号に答えてドアを開けるなんてとこはないんじゃないか?
<遠く、近く、もやに覆われている。背中には段差があり、外側にはない。かの者が没した地の言葉で答えよ。 追伸:常に見ている>
メモをもう一度、見た。
OK、解こうじゃないか。
記念すべき50件目の不採用通知をもらう前に、ちょっとした機会を与えてくれたんだ。
じっくり考えることにしよう。
「遠く、近く」ってのはたぶん遠近法だ。
わけがわからないが、まずは語感で切り口を探すことにする。
「もやに覆われている」ような、空気そのものを描こうとしているような技法は空気遠近法とかってやつだから、そんなには外れてないと思う。
これを確立したのはレオナルド・ダ・ヴィンチだそうだから、彼から当たってみるか。
ルネサンス期にスフマート技法を作品に織り込んだ芸術家はいくらでもいるだろうから、ダ・ヴィンチではないと分かったらその時に別の人物を・・・。
ああ、なるほど。
「常に見ている」って割には監視カメラがないのは、ただのヒントだったってわけか。
これで「背中の段差」ってやつが分かった。
いつも視線が合う絵と言えば「モナ・リザの微笑み」。
あの絵の背景は彼女を挟んで大きくズレている。
これが段差ってやつだろう。
左右を逆転して・・・つまり外側同士をくっつけると背景はなめらかになるって話だ。
これが「外側にはない」を表してると思う。
だとしたら答えはMona Lisa。
簡単じゃないか。
いや、ダ・ヴィンチが没した地の言葉でってあるな。
Monna Lisaか。
いやいや罠だ。
トスカーナ出身だしローマ・ミラノ・フィレンツェをうろうろしてた彼はどう考えてもイタリア人だが、晩年はフランソワ1世に招かれてフランスにいたはずだ。
亡くなったのも王の城と地下で繋がっていたクロ・リュッセ。
ロワール渓谷だったはず。
危ない危ない。
やっぱり脳まで筋肉のうすらバカだったと言われるか、ドアが開くか。
俺は覚悟を決めた。
<La Joconde>
...Enter
(5)に続く
2010/08/07 初版
|