さて、今回は海のお話です。
◆ ◇ ◆
夏休み───。
皆で海に遊びに来た。
ここの海岸にはちょっとした名物がある。
砂浜から少々離れたところに崖があり、天然の飛び込み台のようになっているのだ。
ルールを守れば、安全に楽しめる場所のため、口コミで人気があった。
皆で飛び込んだり、飛び込むところの写真を撮ったりと楽しい時間を過ごす───。
───結構な時間を遊び、疲れが溜まってきたところで、一旦宿に引き上げようということになった。
何人かが崖の下から戻ってきていない。
少し待っていると、一人、また一人と戻ってきた。
だが、最後の一人が、いくら待っても戻ってこない。
心配になって、崖下の上がり場になっているところへ見に行く。
だが、上がり場には見当たらない。
同じように飛び込みに来ていた人に訊いてみるが、やはり見ていないとのことだった。
考えてみれば、結構前から姿を見ていないことに気づく。
皆、飛び込むローテーションで、たまたま姿を見ていないだけだと思っていたのだ。
最悪の事態が頭の端によぎりつつあった───。
その後、捜索を依頼し、捜索本部と宿で待つ者に分かれた。
数時間後、発見の連絡が届いた。
───想定していた、最悪の連絡だった・・・。
後日、仲間の一人から、集まって欲しいという連絡があった。
皆が集まると、呼び集めた当人は何とも言えない顔をしている。
話を聞くと、葬儀が終わった後、写真を現像してもらったのだという。
亡くなった仲間の最後の写真だったからだ。
とりあえず、これを見てくれ───と、一枚の写真を取り出した。
皆、一瞬、その写真がどこで撮られたものなのか、よくわからなかった。
それくらい妙な写真だった。
亡くなった仲間が、崖から飛び降りたところを撮った写真だった。
崖下の海まで、広い範囲を撮っている。
だが───飛び込む先の海は、血のように真っ赤な色をしていた。
そして───その赤い海のいたるところに、何か白い棒のようなものがいくつも突き出している。
「その白い棒のようなもの───腕・・・だよな?」
この写真、現像してきた中には入っていなかったのだという。
写真を一枚一枚を見ていて、撮ったはずの一枚が足りないことに気づき、ネガを確認すると番号が一つ抜けていた。
写真屋に確認すると、こういう写真は渡さないようにしているんですが───と、念を押されてから、ネガとこの写真を渡してもらえたとのことだった。
「あいつ・・・、この腕に引き込まれたのかな・・・」
◆ ◇ ◆
・・・という、お話。
水に関係する怪談の中で、海面や湖面、池や沼などから突き出ている、白い腕や手の話は定番の一つだと思います。
その腕に掴まれると、水の中に引きずり込まれてしまう───そんなお話です。
この話、水辺だけでなく、山でも派生系があります。
異常に長い白い腕が生えていて、それに捕まると事故に遭ってしまうということです。
海にまつわる言い伝えに、よく聞くものがあります。
「お盆の時期に海に入ってはいけない。死者にあの世へ引きずり込まれる・・・」
この言葉には、自然の危険に対する警告が多分に含まれていると思います。
「暑さ、寒さも彼岸まで」などと言うように、時節の名称がある時期は、何らかの変化がが大きくなるときでもあります。
気温や水温、潮の流れも変わることでしょう。
今では認識されている、離岸流なども危険の一つです。
体力のある人でも、自然の前では抵抗することもできず、そのまま事故に───ということも少なくありません。
山や海などに遊びに行ったとき、自然の脅威を忘れませんように・・・。
では、これにて二十一の語り「白い腕」了。
二十二の語りに続く
2010/08/17 初版
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