さて、これもまた有名なお話の一つです。
◆ ◇ ◆
鏡と鏡を向かい合わせにする。
すると───鏡に映った鏡を映し返し、果ての見えない不思議な世界が広がる。
いわゆる合わせ鏡というものだ。
この合わせ鏡に自分を映すと、同じように何人もの自分が映り込む。
───だが、よく見て欲しい。
鏡に映る自分達の中に、一人だけどこか違うものが混じってはいないだろうか。
それは───。
自分そっくりの姿をしている。
一人だけ笑っていたり───。
向いている方向が違ったり───。
左右が逆だったり───。
それが合わせ鏡の魔物である・・・。
◆ ◇ ◆
・・・という、お話。
合わせ鏡に映る自分の一人が違うことをしている。
大体は一桁後半───八人目あたりの人がおかしい、と話に出てきます。
立ち並ぶ自分達の間を、一箇所だけ影がよぎる、などというものもあります。
また、三面鏡の話も、合わせ鏡の派生系と言えるでしょう。
こちらは、夜の特定の時間に、部屋を薄暗くして鏡を覗き込むと、表情が少し違う人がいるというものです。
他には、合わせ鏡を使った召喚術、「合わせ鏡の悪魔」などと呼ばれている話があります。
鏡は一枚でも、別の世界に通じている話がよく見かけられます。
それだけに、複数の鏡に映る世界はどこかに通じやすいのかもしれません。
鏡は使うとき以外は、鏡台なら掛け布、手鏡なら伏せておく、ということが言われます。
鏡にまつわる話を知るほどに、これらがただの作法ではないことに思い当たられることでしょう。
では、これにて三十一の語り「合わせ鏡」了。
三十二の語りに続く
2010/09/01 初版
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