さて、これは今となっては見かけなくなりましたが、往年の定番にある派生系の一つです。
◆ ◇ ◆
ある、安アパートに住んでいた男性がいた。
毎日、朝に仕事に出かけ、仕事から帰ってくる時間は大体23時頃。
その後、風呂と食事を済ませると寝る、といった生活をしていた。
ある日のこと───。
いつも通りに寝ようとしたところ、不意に───ジリリリリン───と電話が鳴りだした。
電話が鳴りだした、といっても自分の部屋ではない。壁の向こう側───隣の部屋からだ。
今までたまたま気づく機会がなかったが、安アパートだけに、よく聞こえる───そんな感想を持った。
ジリリリリン───ジリリリリン───ジリリリリン───。
隣は留守なのだろうか。
電話に出る気配も無いが、電話が鳴り止む様子も無い。
───電気を消して床に就き、しばらくしたところで電話は鳴り止んだ。
数分は鳴り続けていただろうか。
余程、急ぎの連絡だったのだろうか?───などと考えているうちに、眠りについていた。
次の日───。
また、同じような時間に電話が鳴りだした。
そして前日同様に鳴り続け、しばらくしてぱたりと鳴り止む。
さらに次の日───。また次の日───。
これが一週間も続くと、さすがに耳障りになっていた。
しかも、最初は気づかなかったが、毎日少しずつ鳴っている時間が長くなっている。
ジリリリリン───ジリリリリン───ジリリリリン───。
ジリリリリン───ジリリリリン───ジリリリリン───。
ドンドンッ!
不意に玄関の扉が叩かれ、ハッとする。
出ると、不機嫌そうな顔をした男性が立っていた。
「隣の者だが、いいかげん電話に出てくれないか? 毎日、うるさくて敵わない」
予想外の言葉に驚いたものの、自分のところではないことを伝えた。
隣の住人は一瞬、眉を顰めたが、部屋から電話の音がしていないことに気づいたようだった。
電話が鳴り止んだわけではない。
だが、部屋の中で電話が鳴っていないことは分かる。
不意に電話が鳴り止んだ───。
その後、二人は電話について話し合った。
どうやら、それぞれの部屋の間───壁の中から電話が鳴っているらしい。
後日───。
不動産と大家が立会いの下、壁を壊して確認することになった。
壁を壊すと、中から一台の黒電話が見えてきた。
ジリリリリン───ジリリリリン───ジリリリリン───。
不意に電話が鳴りだした。
その場の皆が顔を合わせる。
恐る恐る電話を取った。
「───もしもし・・・?」
『・・・やっと出たか───』
そう言って、ガチャリと電話は切れてしまった。
───とにかく電話を壁の中から取り出すことにする。
そこで皆が見たものは、途中で線が途切れている電話だった・・・。
◆ ◇ ◆
・・・という、お話。
線が途切れているのに、鳴り出す電話。
実際に出遭ったら、とても怖いのではないでしょうか。
線が途切れた電話のお話は「廃ホテル」「廃病院」などの派生系も見られます。
そもそも、廃墟の電話が鳴り出すだけでもおかしいわけですが・・・。
他には「機動隊の宿舎か隊舎に設置されている、今は使われていない電話が鳴り出す」なんてお話もあります。
黒電話の呼び出し音は耳に響くので、今の電子音の呼び出しとは違った風情───とでも言うのでしょうか、独特の怖さを伴っていると思います。
では、これにて六十一の語り「壁の中の黒電話」了。
六十二の語りに続く
2010/10/22 初版
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