さて、これもまた、それなりに知られているお話の一つです。
◆ ◇ ◆
修学旅行の夜。
ある女子部屋ではいつしか怪談話が盛り上がっていた───。
盛り上がっている中、一人が扉───木の引き戸を見つめていた。
それに気づいた子が、どうしたの? と声をかける。
その問いかけに一言───、
「来てる」
───と返した。
その言葉に部屋の中は静まり返った。
皆、扉を見ていた子が、いわゆる霊感があるというのを知っていたからだ。
沈黙に対して、思い出したように付け加える。
「悪意は無いから・・・。興味を惹かれて来ただけ」
部屋にホッとした空気が流れた。
「ねぇ。質問とかできないのかな?」
一人が突拍子も無いことを言い出した。
霊感持ちの子は少し考えて答えた。
「・・・簡単なことなら出来るかもしれないけど、やめたほうがいいと思う」
「悪意はないんでしょ。なら、大丈夫」
何が大丈夫なのかはわからないが、言い出した子はやり方を考えているようだ。
すぐに何かを思いついたらしく───、
「えーと・・・。“はい”ならノックを2回。“いいえ”ならノック1回で答えてください」
───と、扉に向かって語りかけた。
コンコンッ
返事があった。
他の皆が顔を見合わせる。
言い出した子は続けて質問を始めた。
「あなたは女性ですか?」
コンコンッ
「あなたは社会人ですか?」
コンッ
「あなたは学生ですか?」
───という感じに質問を続けていく。
そして───、
「あなたは今、ひとりですか?」
コンッ
「ふたりですか?」
コンッ
「さんにん以上いますか?」
コンコンッ
「んー・・・。では、人数分だけノックしてください」
コンッ コンッ コンッ
コンッ コンッ コンコンコンッ
コンコンコンコンコンコンコンコンコンッ───
◆ ◇ ◆
・・・という、お話。
「修学旅行」の他、「学校の教室」、「自室の部屋」などの背景設定の派生系が主なところでしょうか。
私はこのお話を最初に知ったのは「沖縄への修学旅行」設定のもので、他に付け加えられた設定として「ひめゆり学徒隊」を絡めたものでした。
今回の語りと同様に、“何か”が誰なのかを明確にはしていませんでしたが、“おそらく”そうなのだろう、と思わせる語り口が印象に残っています。
では、これにて七十一の語り「ノック」了。
七十二の語りに続く
2010/11/21 初版
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