さて、山の中ではこんな事も起こります。
◆ ◇ ◆
ある田舎での出来事───。
彼は用事をこなしに、山一つ越えたところへと自転車を漕いだ。
用を終え、そのまま雑談に華が咲く。
気づくと予定よりも長居しており、急ぎ帰ることにする。
山に入ったときには日は傾き、釣瓶落としで日は沈んだ。
道幅も狭く、明かりの無い山道だ。
自転車のライトはあるものの、昼間と違って、速度を出して漕ぐと崖下に突っ込んでしまってもおかしくは無い。
速度を出せない以上、自転車に乗るよりは押していったほうがいい。
特に今進んでいる急勾配の激しい上り坂ではなおさらだ。
坂を上り終えて一息ついた。
この先、少し行くとトンネルがある。
そこまで行けば多少は整備されているので漕いでいける。
自転車を押しながら歩いていると───不意に自転車が“ガクン”と止まった。
気づかなかったが、木の根にでも引っかかったのだろうか?───タイヤを見るが暗くてよくわからない。
自転車を揺さぶってみるが、変に嵌まり込んでいるようだった。
状態を見るためにハンドルからライトを取り外す。
前輪───。
特に何も無い───。
後輪───。
何か白いものが絡みついている───。
最初、白いものが“何か”わからなかった。
予想していない───想像外のものだったからだ。
ゆっくりと染み込むように、それが何なのかを理解する。
声にならない悲鳴を上げ、後ずさって転ぶ。
自転車の後輪に絡んでいたもの───。
それは地面から突き出し、後輪を握り締めて離さない“白い手”だった・・・。
◆ ◇ ◆
・・・という、お話。
これも有名な話の一つだと思います。
今回の語りでは「自転車」ですが、「リヤカー」の場合もあります。
リヤカー版のほうが有名かもしれません。
地面から突き出て掴んでくる表現は、主にゾンビ物の定番と言えますが、これは実際に出遭ってしまったら相当怖いと思います。
当たり前ですが不意打ちなわけですし・・・。
あなたが今、椅子に座っていたら───。
いきなり両足首を掴まれる!・・・なんてことも?
では、これにて八十一の語り「白い手」了。
八十二の語りに続く
2011/01/06 初版
|