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百物語 八十一の語り
鈴鳴零言

 さて、山の中ではこんな事も起こります。

 ◆ ◇ ◆

 ある田舎での出来事───。

 彼は用事をこなしに、山一つ越えたところへと自転車を漕いだ。
 用を終え、そのまま雑談に華が咲く。
 気づくと予定よりも長居しており、急ぎ帰ることにする。

 山に入ったときには日は傾き、釣瓶落としで日は沈んだ。
 道幅も狭く、明かりの無い山道だ。
 自転車のライトはあるものの、昼間と違って、速度を出して漕ぐと崖下に突っ込んでしまってもおかしくは無い。
 速度を出せない以上、自転車に乗るよりは押していったほうがいい。
 特に今進んでいる急勾配の激しい上り坂ではなおさらだ。

 坂を上り終えて一息ついた。
 この先、少し行くとトンネルがある。
 そこまで行けば多少は整備されているので漕いでいける。

 自転車を押しながら歩いていると───不意に自転車が“ガクン”と止まった。
 気づかなかったが、木の根にでも引っかかったのだろうか?───タイヤを見るが暗くてよくわからない。
 自転車を揺さぶってみるが、変に嵌まり込んでいるようだった。
 状態を見るためにハンドルからライトを取り外す。

 前輪───。
 特に何も無い───。

 後輪───。
 何か白いものが絡みついている───。

 最初、白いものが“何か”わからなかった。
 予想していない───想像外のものだったからだ。
 ゆっくりと染み込むように、それが何なのかを理解する。
 声にならない悲鳴を上げ、後ずさって転ぶ。

 自転車の後輪に絡んでいたもの───。
 それは地面から突き出し、後輪を握り締めて離さない“白い手”だった・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 これも有名な話の一つだと思います。
 今回の語りでは「自転車」ですが、「リヤカー」の場合もあります。
 リヤカー版のほうが有名かもしれません。

 地面から突き出て掴んでくる表現は、主にゾンビ物の定番と言えますが、これは実際に出遭ってしまったら相当怖いと思います。
 当たり前ですが不意打ちなわけですし・・・。

 あなたが今、椅子に座っていたら───。
 いきなり両足首を掴まれる!・・・なんてことも?

 では、これにて八十一の語り「白い手」了。


八十二の語りに続く

2011/01/06 初版




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百物語 八十二の語り
鈴鳴零言

 さて、悲惨な事故・事件には“お話”がついて回ります。

 ◆ ◇ ◆

 昔、ある悲惨な事故があった。
 概要は列車事故。
 踏切で女性が轢かれ、バラバラになってしまったというものだ。
 この事故、警察・鉄道の関係者が付近一帯をくまなく探したのだが、どうしても体の一部が見つからないという結果で終わっている。

 この事故の話を知ると、後日、何らかの形で質問されるという───。

 それは電話であったり───、
 人通りの無い道であったり───、
 家に一人で居るときであったり───、
 夢の中───ということもあるという───。

 そして質問には正しい解答をしなければならない。
 ───もし、正しい答えを返すことができなければ、あなたは体の一部を失い死ぬことになるだろう・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 「カシマさん」と呼ばれる都市伝説です。
 非常に派生系が多いお話ですが、基本は3つ。

「過去にあった事件・事故の話を知る」
「話を知った者のところに質問者がやってくる」
「質問に答えられないと体の一部を失う」

 といった構成で、「事件・事故の被害者が“カシマさん”であり、亡霊となったカシマさんが、見つからない体を捜して彷徨っている」というお話です。

 語りのなかで記していない質問の内容は、主に以下の通り。

 「手(足)をよこせ」───「今、使っている(今、必要)」と答えるパターン。
 「手(足)はいらないか?」───「いらない」と答えると奪われるパターン。

 質問に関わらず出遭った時点で───、

 カシマの「カ」は仮面の「カ」
 カシマの「シ」は死人の「シ」
 カシマの「マ」は魔物の「マ」

 ───と大声で叫ぶパターンもあります。
 カシマさんがフルネームで設定されている場合は以下の通り。

 カシマレイコの「カ」は仮面の「カ」
 カシマレイコの「シ」は死人の「シ」
 カシマレイコの「マ」は魔物の「マ」
 カシマレイコの「レイ」は幽霊の「レイ」
 カシマレイコの「コ」は事故の「コ」

 始めに記した通り、“カシマさん”にはバリエーションが多く、連続発生した事件が一連の呪いだった───というような大掛かりなものまで存在しています。
 あなたが知っている“カシマさん”はどんなお話でしょうか。

 では、これにて八十二の語り「カシマさん」了。


八十三の語りに続く

2011/01/08 初版




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百物語 八十三の語り
鈴鳴零言

 さて、こういったお話も定番の一つです。

 ◆ ◇ ◆

 昔、大火事に巻き込まれ、酷い火傷を負って亡くなった人がいた。
 まだ息があるうちに助け出されたが、全身が焼け爛れており、病院に運ぶ間もなく亡くなったという。
 その酷さ故だったのか、亡くなった人はこの世に想いを残し、亡霊になってしまったそうだ。

 この話を知ると───。
 3日後にその亡霊がやってくるという・・・。

 ◇ ◇ ◇

 ある女性が電車に轢かれて亡くなった。
 その時、女性の右手が車輪に巻き込まれて轢き潰されてしまったそうだ。

 この話を聞いた人のところには、その女性の亡霊がやってくる。
 そして───私の右手を知りませんか?───と訊ねるのだという。
 このとき「知らない」と答えると右手を奪われてしまう。
 訊ねられたら「知っている」と答え、ある方向を指差して「向こうです」と答えると、亡霊は去っていくのだ・・・。

 ◇ ◇ ◇

 少女が鏡の前で、とある理由から死にたいと思っていた。
 ある日、いつものように鏡の前で死にたいと思っていると、鏡の中の少女が姿を変えた。
 鏡の中の存在は少女に───お前の望みを叶えよう───と告げ、あの世に連れ去ったという。

 この話を聞いた人は3日間、鏡を覗き込んではいけない。
 もし覗き込んでしまうと、鏡の中の存在にあの世に連れ去られてしまうからだ・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 主にショートショートの怪異談に見られますが───この話を聞く(知る)と、3日後に霊が現れる───といったものを幾つかまとめて見ました。
 期間は3日後の他、1週間や1ヵ月、1年などの区切りや、事件に関連する数字が挙げられます。

 文章にすると数行で終わる程度のお話は、それこそ人の数だけお話にアレンジが加わることも多く、いつのまにか内容に矛盾が生じていることも多々あります。
 そんなお話を見て、どこで別の話が混じったのかと想像するのも楽しいのではないでしょうか。

 では、これにて八十三の語り「話を知るとやってくる」了。


八十四の語りに続く

2011/01/10 初版




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百物語 八十四の語り
鈴鳴零言

 さて、今回も“話を聞くとやってくる”類のお話です。

 ◆ ◇ ◆

 真夜中───。
 どんなに深く眠っていても、不意に目が覚めるときがある。
 それも目が冴えてしまっている覚め方だ。

 時計を確認する───。
 トイレに行く───。
 水を飲む───。

 そのときによって行動は違うだろう。
 そして無理に寝ようとしていると、妙に玄関が気になるのだ。

 玄関の前に立つ。
 誰もいないだろうと思いながら玄関を開ける。
 すると───、そこには全身から血を流し、傷を負った兵士が立っているのだ。
 そして、驚くあなたに、兵士は水を求めてくる。

 このとき、求めに応じ、水を与えると兵士は喜び、お礼を約束して消えていく。
 しかし、水を与えずにいると、兵士は呪いの言葉を吐いて消えていく。

 この話を聞いた人のところに兵士は現れる。
 この話を忘れた頃に・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 特に目立ったところがないお話ですが、私は同じタイプのお話のなかで原型に近いのではないかと思っています。
 それを感じさせるポイントとしては、兵士が“お礼”をしてくれる可能性があるというところです。
 よく見られるものでは“呪い”や“恐怖”の部分のみであることがほとんどであり、“お礼”のくだりは伝えられていくうちに削られてしまったのではないでしょうか。
 昔話の善良爺さんと強欲爺さんのように、ある種の道徳を教え諭しているものは、現在の怪談では変わり種かもしれません。

 この語りに出てくる兵士は、落ち武者などの侍か、旧日本軍人の姿ですが、もちろん兵士以外で語られていることもあります。
 割とあるのは、防空頭巾に子供を連れた女性でしょうか。
 その場合に多いですが、血塗れの姿ではなく、焼け爛れた姿で語られていることもあります。

 このお話、善良爺さんと強欲爺さんではありませんが、その人の心次第で勝手に体が動いて結末が定まる、という派生系もみられます。
 もしあなたが、この怪異に出遭ったとき、水を与えることができるのでしょうか。

 では、これにて八十四の語り「真夜中にやってくるモノ」了。


八十五の語りに続く

2011/01/12 初版




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百物語 八十五の語り
鈴鳴零言

 さて、この“話を聞くとやってくる”モノは姿に特徴があります。

 ◆ ◇ ◆

 話を聞くとやってくる───そんな怪異の一つに“おかむろさん”と呼ばれるものがある。

 夜中───、家の戸や窓、壁を数回ずつノックする音が続く。
 ノックを無視していると、戸や窓を抉じ開けて、笠をかぶり、黒い着物を着たモノが中に入ってくる。
 そして、その姿を見た者は死ぬことになる───。

 これが“おかむろさん”と呼ばれる怪異だ。
 あなたがもし、この怪異に出遭ってしまったのなら、ある“おまじない”をすることで難を逃れることができるだろう。

 おかむろ、おかむろ───おかむろ、おかむろ───おかむろ、おかむろ───

 このように「おかむろ、おかむろ」と3回唱えることで“おかむろさん”は消え去るだろう・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 おまじないがそのまま怪異の名前になっているお話の一つです。
 “さん”付けは無しで、単に“おかむろ”となっている場合もあります。

 “おかむろさん”の姿は、“笠に黒い着物”の他───四国八十八箇所巡礼の“お遍路さん”の真っ黒なもの───真っ黒な“山伏”姿───などがあります。
 また、山伏姿とされる場合などに、ノックではなく“錫杖”を鳴らすとされている場合もあります。

 “おかむろさん”のお話には、雷避けのおまじない「くわばらくわばら」のように、災厄避けのおまじないがでてきますが、これも例によって「おかむろ」と3回、「おかむろさん」と3回、というように派生系があります。
 おまじないを唱えるタイミングが伝えられている場合は、「ノックが聞こえている間」、「おかむろさんを見て死ぬ前まで(おかむろさんに殺される直前まで)」などというのが定番です。

 あなたが夜中、窓や壁を叩く、ノックの音を聞いたなら───それは“おかむろさん”かも知れません。

 では、これにて八十五の語り「おかむろ」了。


八十六の語りに続く

2011/01/14 初版




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百物語 八十六の語り
鈴鳴零言

 さて、今回でひとまず“話を聞くとやってくる”モノは一段落です。

 ◆ ◇ ◆

 夜中───丑三つ時に部屋に居るとき、戸の向こうや、窓の向こうに誰かがいる気配を感じることがある。
 そんなとき、戸やカーテンを開くと、そこに見知らぬ老婆が立っている。
 この老婆に出遭うと、遠いところ───この世ではないどこかに連れて行かれてしまうのだ。

 ある“おまじない”を唱えることで、老婆と出遭わずに済むという。
 戸や窓を開ける前に「姥よ去れ」と3回唱えることで、気配は消え去るだろう。

 姥よ去れ───姥よ去れ───姥よ去れ───

 この話を聞いた者のところへ、1週間以内に老婆はやってくるという・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 前の語りの“おかむろさん”と、ほぼ同じ構成のお話です。
 このお話もバリエーションが多く、その中で“おまじない”の呪文が特徴的かも知れません。

 姥よ去れ───
 婆よサレ───
 ババ去れ───
 バーサレ───
 バーサラ───

 ───など、元の言葉が訛って変わっていったと思われる言葉の変遷を感じるのも、このお話の楽しみ方でしょう。

 老婆に出遭うと「連れ去られる」くだりもバリエーションがあります。
 よく見られるものでは「鎌で首を刈られる」、「手斧で頭を真っ二つ」などでしょうか。
 めずらしいものでは「老婆の目が光って、見た者の体が破裂する」というものも。

 戸や窓を開けさせようとする妖怪のお話のように、家族や友人の声真似をしてくるバリエーションなども見られ、“話を聞くとやってくる”類の中では古くからある一つなのでしょう。

 ところで、このお話は“1週間以内”というのが共通のようです。
 ここに伝聞のなかで失われた部分がありそうですが、それは果たして・・・。

 では、これにて八十六の語り「姥よ去れ」了。


八十七の語りに続く

2011/01/16 初版




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百物語 八十七の語り
鈴鳴零言

 さて、今回はよくある短編の話題を。

 ◆ ◇ ◆

 ある日の放課後、彼女が図書室に寄ったとき、受付カウンターの前で顔馴染みの図書委員に声をかけられた。

「あ。Aさん、ちょっといい?」

 小声で返事をしながらカウンターに近づく。
 図書委員の子はカウンターの棚から数枚のレポート用紙を取り出して渡してきた。

「何これ?」
「さっきまでBちゃんが調べ物してて、そのときの忘れ物。渡してあげてくれる?」

 快く了承して、なんとなくレポート用紙に目を落とし───頭をかかえそうになった。
 図書委員の子も理解したのか苦笑を浮かべている。
 レポートには───。

 ◇ ◇ ◇

『三本足のリカちゃん人形』
 リカちゃん人形に三本足のものがある。
 拾うと「わたしリカちゃん。わたし呪われているの」と喋る。

 ◇ ◇ ◇

『機動隊宿舎・自衛隊宿舎』
 金縛りに遭う。
 防空頭巾の女性の霊に遭う。
 壁から霊が抜け出てくる。
 建物が傾いていくような感じを受けるが実際には何も無かった。

 ◇ ◇ ◇

『自衛隊弾薬庫』
 訓練で使われた弾薬の薬莢を探し続ける自衛隊員の霊。

 ◇ ◇ ◇

『I県T市』
 事故が多発する十字路。
 霊が十字路の中心に立っていることもある。

 自殺の名所になっているビル。
 外にある非常階段には金網が張り巡らされている。
 十階から窓の外を見ると、「逆さになった男の顔」、「空中を歩く少女の霊」などが見えることがある。

 ◇ ◇ ◇

『死に誘う音楽』
 主に真っ黒なジャケットのレコード。
 CD版の話もある。

 ◇ ◇ ◇

『新耳袋』
 一日に百話以上読んではいけない。
 百話以上読んでしまうと怪異が起こる。
 文庫版で分冊になっていて、気づかずに百話以上読んでしまいやすい。

 ◇ ◇ ◇

 ───と、いうような感じで、レポート用紙にメモが記されていた。

 きっと数日後には「ねぇねぇ、知ってる〜?」と無邪気に話し出すのだろう。
 私もオカルトは嫌いじゃないし、私なりの楽しみかたも知っている。
 物語として楽しむのが私のスタンスだが、あの子は勢いで噂の場所に出かけかねない。
 素直に忠告を受け入れるが、誰かが止めないと、危険な場所でも深く考えずに突撃するタイプなのだ。

 図書委員の子に挨拶を交わすと、図書室を後にした。
 まだ校内にいるであろう友人を探すために・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 『七の語り』に出てきた子の一人の視点で紹介してみました。

 「三本足のリカちゃん人形」は「呪われたリカちゃん人形」として、出てくることの多いお話です。
 公園やトイレなどに捨てられている人形を拾って見ると、人形が喋った───といった構成であることが多いお話で、それだけで終わっているか、他のお話を混じっているかで分かれます。

 「機動隊宿舎・自衛隊宿舎」や「自衛隊弾薬庫」のお話は定番の短編です。
 構成内容に伴って、若干のバリエーションがありますが、それほど大きな違いは無いようです。

 「I県T市」はローカルなお話になりますが、この場所は「マラソン幽霊」のお話の発祥がここである───と、いう説もあったりするので、調べると意外に面白そうな場所ではあります。

 「死に誘う音楽」は、いわゆる「聞くだけで眠るように死ぬことができる」とか「催眠術にかかったように死に向かう」などと言われるものです。
 実効果のほどはともかくとして、有名なものでは『暗い日曜日』が挙げられます。
 サブリミナル効果を挙げたお話などの場合もあり、科学的・人為的な要素を含んだオカルト話でもあります。

 「新耳袋」は最近の実際に起こった怪異の噂として有名なものです。
 要は百物語の本版です。
 収録されている物語が、良くも悪くも選りすぐりだけに怪異を呼び寄せやすい───のかもしれません。

 では、これにて八十七の語り「ある日の短編メモ」了。


八十八の語りに続く

2011/01/26 初版




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百物語 八十八の語り
鈴鳴零言

 さて、霊は“何か”を伝えるために現れるとも言います。

 ◆ ◇ ◆

 ある山の峠道に一つの噂があった。
 そこで写真を撮ると、高確率で幽霊が写る───いわゆる心霊写真が撮れるという噂だ。
 峠道の半ば程に自販機が設置されている所があり、その辺りが特に写りやすいとされていた。

 ある日の夜───。
 その噂を確かめてみよう、と峠道に出かけた大学生のグループがいた。
 以前は峠を攻める走り屋がそれなりにいたらしいが、噂のせいで余計な邪魔が入ることが多くなって他所に行ったらしく、今は静かなもの・・・らしい。
 見に行くなら今がチャンスだろうということからだ。

 グループは峠道へ順調に辿り着いた。
 噂通り、走り屋もいないようだったので、道をゆっくりと進みながら写真を撮っていく。
 そして───。
 もっとも噂の大きい自販機前までやってきた。
 自販機は道の側に設置されており、奥に駐車場跡と思われる舗装された敷地が拡がっている。
 昔はサービスエリアのような休憩所があったのだろう。
 ここの自販機はその名残のようだった。

 自販機前を中心にフィルムが無くなるまで辺りの写真を収めると、グループは峠道を後にした。

 後日───。
 出来上がってきた写真を皆で見ようと集まった。
 ワイワイと騒ぎながら一枚一枚確認していく。

 自販機が写った写真のところで───騒ぎが途絶えた。
 その写真には───自販機の前にはっきりと二人の女性が立っていたのだ。
 もちろん、撮影時は誰もいなかった。
 皆、驚愕で再び騒ぎ出す。
 他にも何か写っていないかと、確認作業を再開した。

 結果───。
 写っていたのは三枚の写真だけだった。
 いずれの写真も、ありがちな“幽霊かもしれない?”というものではなく、“普通に人が立っている”と言われたほうが納得できる、はっきりしたものだった。

 一枚目は「自販機の前で、二人の女性がこちらを睨みつけて立っている」というもの。
 二枚目と三枚目は、それぞれ形は違うが「こちらを睨みつつ、手で何かのポーズを取っている」もの。

 写真を見ているうち、グループの一人が「これって手話かな?」と言い出した。
 確かに手話でありそうなポーズだ。
 そこで、手話の本を借りてきて調べることにした。

 二枚目は「し」だった───。
 三枚目は「ね」だった───。

 「し」と「ね」───“死ね”!?

 後日、この写真は処分されたという・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 霊が何かを伝えるとき、直接的な表現もありますが、夢占いにある象徴のように暗喩表現である場合も多くあります。
 この語りに出てくる表現は直接的なものですが、手話という珍しい方法を取っています。
 他に類を見ない、珍しいものだと思います。

 あなたがアルバムを整理していて、何気なく写っている人───その人が何かポーズを取っていたとしたら、霊であれ、人であれ、誰かに伝えようとしているメッセージなのかもしれません・・・。

 では、これにて八十八の語り「手話」了。


八十九の語りに続く

2011/01/28 初版




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百物語 八十九の語り
鈴鳴零言

 さて、霊は生者を誘う・・・とも言われます。

 ◆ ◇ ◆

 ある友人グループがいた───。

 ある時、その友人達で山荘に遊びに行こうという計画を立てた。
 都合の結果、5人が参加を決めた。

 女性───Aが山荘で留守番をしていた。
 ここまで車で送ってきたCが、駅までDとEを迎えにいったのだ。
 Aの彼氏であるBも参加するが、用事をこなしてから来るとのことで、少々遅れる予定だ。

 待っている間に空模様が悪化していた。
 天候が変わりやすいので、そんなこともあるだろう。
 一時間ほど経った頃だろうか、不意に山荘の電話が鳴った。
 電話を取ると、Cからだった───。

「Aか? 落ち着いて聞いてくれ・・・Bが崖崩れに巻き込まれて死んだ───」

 パニックを起こしそうな自分を繋ぎとめながら話を聞くと、Bが山荘途中の道で崖崩れにあったらしい。
 自分達は今、駅から電話をかけていて、これから山荘へ向かうという。
 もし───Bが来ても、それはAを誘う幽霊だから、自分達が行くまで絶対に開けるな───そう言って電話は切れた。

 いろんな感情と思考が織り交ざって、Aはぼんやりとしていた。
 どれぐらいぼんやりしていたのだろうか。
 玄関を激しく叩く音で我に返った。
 慌てて玄関に向かうが、Cの言葉を思い出し、誰かと訊ねてみた。

「俺だ、Bだ。開けてくれ───」

 死んだはずのBがやってきた?───Aはパニックになった。

 しばらくの間、よくわからない押し問答を扉越しに繰り返し───そして、自分を連れて行く幽霊でもいいからBに逢いたいと思い、玄関を開けた。
 そこには───雨に濡れ、ところどころ擦り傷などの軽傷でぼろぼろになった感のBが立っていた。
 幽霊ではない、B本人だった。

 Bは中に入ると警察に連絡を入れた。

 怪我に処置をしながら話を聞くと、たまたま駅近くでC達と合流し、バイクに乗っていたBが先行する形でこちらに向かっていたのだという。
 そして───山荘途中の道で自分達は崖崩れに巻き込まれた。
 C達の乗った車は崖崩れの直撃を受けてしまい、自分も巻き込まれたものの、バイクから上手く投げ出されたことで運良く助かったとのことだった。
 それからBは歩いて山荘までやってきて、そのあとは知っての通りと話を締めた。

 翌日───。
 土砂の中から、C達の乗った車が発見された・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 怪談系の書籍に収録されていたこともある題材の一つなので、有名な方だと思います。

 山荘などで待っている彼女。
 遅れて到着する予定の、残りのメンバーと彼氏。
 メンバーから彼氏が事故で死んだと連絡。
 メンバーからは彼氏の幽霊が来てもドアを開けてはいけないと言われる。
 彼氏が到着し、最終的にドアを開け、逆にメンバーが事故で死んだと聞かされる。

 ───といった基本構成で、会話部分などの演出を除けば変化の少ないお話であることが多いようです。

 彼氏や友人といった、共に親しいものの言葉。
 実は連絡してきた人間が、死へと誘う幽霊だったという状況。
 あなたはこんなとき、誰の言葉に従うのでしょうか・・・?

 では、これにて八十九の語り「事故にあったのは・・・」了。


九十の語りに続く

2011/02/03 初版




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百物語 九十の語り
鈴鳴零言

 さて、生き残るために苦渋の選択を迫られることもあります。

 ◆ ◇ ◆

 古い時代、ある田舎の寒村でのこと───。

 その年は凶作だった。
 ただでさえ土地が痩せているというのに、これでは実りは無いに等しい。
 このため、この年もある決断をしなければなかった。

 この村の風習───というべきだろうか、生き残るために取っていたこと。
 それは口減らしである。

 働ける者以外を切り捨て、なんとか食いつなぐ。
 この村では、大人で働けなくなった者は村を出て行くのが通例だ。
 他の地域では“姥捨山”などが有名だろうか。

 そして───。

 子供でも働けない者に例外は無く、対象となった子供───実質、赤子───は貧困で苦しまぬよう一思いに殺してあげたほうが幸せと考えられていた。
 無論、表立って殺してしまうことは問題があったため、その子供は初めからいなかったこととされた。
 故にお墓が立てられることもなかった。

 問題となったのが葬る場所である。
 土葬が普通だった時代、埋めるにはそれなりの場所が必要となる。
 そして表立ってはいけないという条件があった。

 自然と選ばれたのが床下であったが、いつしか土間の敷居の下になっていた。
 理由は定かではないが、葬った場所をを直接踏まずに済む場所だからというのもあったようだ。

 “敷居を踏んではいけない”

 口減らしの風習がなくなった現在もそれは伝わっている・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 マイナーですが“敷居を踏んではいけない”ことにまつわるお話です。
 突っ込みどころが多い話ですが、事実でも不思議ではないところに妙があるお話と言えるでしょう。

 「敷居」や「畳の縁」を踏んではいけないという行儀作法ですが、その理由の一つにここでの語りにふさわしいものがあります。
 それは「結界・境界」としての意味というものです。
 敷居は「家の内と外」、また「部屋の内と外」というように空間を区切ります。
 畳の縁には「主人」と「客人」を区別するものとしての意味があるようです。

 このように結界・境界としての意味があるが故に、踏んでしまうと、どっちつかずの曖昧な位置に立ってしまうことになります。
 つまり、空間として捉えるなら、どことも知れない空間に立っていることになるわけです。

 平穏に過ごしたいのであれば境界は踏まないことです。
 踏んでしまえば、そのとき、この世ではない場所に立っているということに他ならないのですから・・・。

 では、これにて九十の語り「敷居を踏んではならない」了。


九十一の語りに続く

2011/07/28 初版

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