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百物語 九十一の語り
鈴鳴零言

 さて、夜中の「鬼ごっこ」に「隠れんぼ」はいかがでしょうか。

 ◆ ◇ ◆

 ある学校に一つの噂があった。

 正確には複数ある噂のうちの一つ───いわゆる七不思議の一つに挙げられているものだ。
 割と古くからある学校の為、その手の噂には事欠かない。
 ただ、引き継がれた噂の中でも、それは相当昔から伝わっているらしい。

 その噂とは───。

 夜中の校舎をうろついていると、生気のない顔をした看護婦に追いかけられる。

 いつ頃から伝わっているのかは知らないが、そんな話があった。
 定番と言えば定番の噂である。
 学校が建つ以前に病院があったのは本当のことらしいので、そこから出てきた話なんだろうとは思う。
 この噂を思い出してしまったのは、自分が今、夜中の校舎にいるからだろう。

 誰もいない校舎。そして非常灯程度の明かり。正直、不気味だ。

 忘れ物に気づき、翌日に来れるならそのままにしたが、休日を挟んでしまうために仕方なく取りに来たのだ。
 守衛の人に許可をもらって、無駄に広い校舎を進む。

 ふと───自分以外の足音が聞こえた気がした。

 足を止めると誰かが歩いているのが分かった。
 守衛の巡回だろうか?
 足音は後ろのほうから聞こえてくる。
 振り向くと遠くに人影が見えた。
 薄暗いのでわかりにくいが、守衛ではないようだ。
 たぶん───女性?

 白いブラウスに濃い色のスカート。
 妙に青白く感じる顔。
 そして頭にナースキャップ・・・?

 弾けたように逃げ出した。
 例の噂に思い至ったからだ。

 引き離して、呼吸を整えながら耳を澄ませると静かに足音がついてくる。
 走ってくることはないようだが、歩いて追いかけて来ているようだ。
 辺りを見回すとトイレが目に入った。

 奥の個室に入り鍵をかける。
 息を潜め、耳を澄ませる。
 足音が少しずつ近づいてくる。
 そして───トイレの前で足音が止まった。

 誰かがトイレに入って来た。
 しばしの沈黙。

 不意に個室のドアを開く音が響いた。
 思わず声を上げそうになるのを押さえ込む。
 しばしの沈黙。

 再び個室のドアを開く音が響く。
 しばしの沈黙。

 再び個室のドアを開く音が響く。
 手前の個室から順に調べているのが分かる。
 隣の個室のドアが開いた。

 そして沈黙───。

 どれほどの時間が経ったのだろう?
 いつまで経っても自分が居る個室に変化が無い。
 諦めてどこかに行ってしまったのだろうか。
 耳を澄ませるが、誰もいないような気がする。
 大きく息を吐く。
 ふと、視線を感じ、ドアの上のほうに視線を上げる。

 そこには───ドアの上に身を乗り出し、生気の無い目でこちらを静かに覗き込む看護婦がいた。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 語りの中で「看護婦」と表記していますが、これは時代的な都合です。
 「看護師」と表記が変わってからは、このお話を聞いたことがありませんが、そのうち看護師バージョンのものも出てくるのかもしれません。

 このお話も多彩な派生系があります。

 校舎内をうろつく理由に「肝試し」や「忘れ物」。
 「こっそり侵入する」場合と「宿直の先生・用務員・守衛に用事で来たことを告げる」場合。
 「複数」で歩くこともあれば「単独」で歩くことも。

 このあたりまでは他のお話でもよく見られる派生系です。
 話の流れとして特徴的なものは、

 出てくるモノだけに、場所が「学校」でなく「病院」である場合。
 学校が「元病院」の建物である場合。これは概ね「病院跡地」だったという背景設定が多いでしょう。
 誰も乗っていない「車椅子」を押していることもあります。これは最後シーンの後がある場合、捕まえた者を乗せていくのです。
 捕まってしまう派生系だと「行方不明」になることも多いようです。
 そして、看護婦の服装が「古いデザイン」である場合です。
 これはパステルカラー以前の白いナース服ではなく、メンタムの女の子のイラスト(今も使われているかは知りません)、ナイチンゲールの時代のような服装が出てくる場合があります。戦時中の野戦病院跡という背景設定があるときに多いかと思います。

 背景設定的に出会うことはないだろうと思っている方。
 マイナーな派生系で「ビル」というものがあります。
 それなりに広くて、隠れることができる場所ではご注意を・・・。

 では、これにて九十一の語り「覗き込む看護婦」了。


九十二の語りに続く

2011/08/07 初版




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百物語 九十二の語り
鈴鳴零言

 さて、今回は再び心霊スポットにまつわるものです。

 ◆ ◇ ◆

 「花魁淵」と呼ばれる場所がある。
 観光協会によって建てられた、そこの故事概要を記した看板によると───、

 この一帯にあった、武田氏の隠し金山と言われる黒川金山。
 これが武田氏滅亡の折に閉山となった。
 その際に鉱山労働者の相手をしていた遊女55人を、金山の秘密が漏れることを恐れて皆殺しにしたのだという。
 その方法が、柳沢川に藤蔓で吊った宴台を作り、酒宴の興に舞っている間に藤蔓を切り落とし、宴台もろとも淵に沈めて殺害した。

 ───というもの。
 淵に滝といった水場があり、さらに凄惨な物語、と確実に何かが起こりそうな場所である。

 さて、そんな場所で起こる現象や噂を挙げると───、

「周辺一帯でパンク事故が異常に多い」
「普通、傷がつくような場所ではないタイヤ側面に切り傷がついている」
「故事を記した看板(碑)を全て読むと呪われる」
「女性(少女)の泣き声が聞こえる」
「この場所に女性は行かないほうが良い(呪われる・引きずり込まれる・危険な目に合う等)」

 ───などがある。
 周囲が崖沿い、最寄の民家まで数km、携帯電話が圏外となる僻地(現在も圏外かは不明)といった場所だけに、何かあった場合でも何とかなるだろうと楽観視して行く場所ではないのは確かである。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 実際の事件があった場所は、看板がある辺りよりも上流の、滝のある辺りだったとされ、小さな碑が残されているそうです。
 また、下流の村に遊女の遺体を引き上げてお堂を建てて供養したという言い伝えがあり、現在あるお堂はそれを再建したものとのこと。

 現象や噂の「パンク事故が多い」「タイヤ側面に切り傷」という話ですが、

「タイヤ側面に簪が刺さっていた」

 という話もあります。
 この辺りを車で通った際、何もなかったと思っていても、タイヤ周りを確認すると不可思議な痕跡が見つかるかもしれません・・・。

 では、これにて九十二の語り「花魁淵」了。


九十三の語りに続く

2011/08/14 初版




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百物語 九十三の語り
鈴鳴零言

 さて、これも一時期流行ったお話です。

 ◆ ◇ ◆

 あるところに廃屋になった一軒家があった。
 その家は例に漏れずと言うべきか、主人が夜逃げ、奥さんが自殺という“らしい”経緯を経て廃屋になったと噂になっていた。

 その廃屋へ肝試しに行ったグループがいた。
 彼らは「何か映れば面白いな」程度に、ビデオカメラで撮影しながら侵入することにした。

 やってきた廃屋は、以前にも誰かが侵入してふざけたんだろうと想像できる程度に、派手に散らかって荒れ果てているのが開け放たれた玄関からも見えた。
 そう───この廃屋は、まだ生活臭が残っている程度に新しいのである。

 彼らは玄関から侵入することにする。
 玄関に入ったとき、テンションも上がっていたせいか、

「お邪魔しまーす」

 と挨拶して入った。
 気分は「○○さん家のお宅訪問」といったノリである。
 その後もコメントを残しながら各部屋を見てまわる。

 一通り見てまわった彼らは、記念とばかりに皿を一枚手にすると、

「これ、もらっていきますねー」

 と言って、玄関に向かった。
 玄関を出る時はもちろん、

「お邪魔しましたー」

 と言って廃屋を後にした。

 その後、ビデオを再生してみることにした。
 すると───、

「お邪魔しまーす」
「・・・いらっしゃい・・・」

 自分達の声とは別に、挨拶に答える声がある。
 その後もコメントに答える声があり、

「これ、もらっていきますねー」
「・・・返せ・・・」

 立ち去るときには、

「お邪魔しましたー」
「待てえぇぇっ!!!」

 と、声が入っていたとか・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 このお話も流行っていただけに派生系があります。
 ただ、今回の語りのように基本構成だけのものだと、「ビデオカメラ」ではなく「テープレコーダー」になっているなど、小物部分の変更あたりが主な派生系でしょうか。
 あとは台詞回しぐらいです。

 一見すると「廃病院から物持ち出し」の派生系に思えるお話です。
 しかし、このお話はG県M市であった話という噂も存在しています。
 そちらの場合だと、後日談というか後編部分にあたるお話があります。
 いわゆる「この話を聞いた者は〜」系のお話です。
 その噂とは───、

「この話を聞いた者は24時間以内に鏡を見てはいけない」
 ───見てしまうと、自殺した奥さんの霊が来てしまう可能性がある。

「奥さんの霊が来ても絶対見てはいけない」
 ───見てしまうとどうなるかは語られていない。
 ただ、噂に「顔に熱湯をかぶり、飛び降りて自殺した」とあるので、察するべしと言うべきか。

「奥さんの霊がする全ての質問に正しく答えること」
 ───奥さんの霊が来ると「どうして私を知ってるの?」といった感じに質問を重ねてくるという。
 その答えは全て「旦那さんから聞いた」と答えること。
 これも間違った答えた場合にどうなるかは語られていない。

 ───といったお話です。
 必ず来るということではないものの、確率はかなり高いのだとか。
 このあたりも「廃病院の物持ち出し」に似ているのですが果たして・・・。

 では、これにて九十三の語り「お邪魔しまーす」了。


九十四の語りに続く

2011/08/25 初版




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百物語 九十四の語り
鈴鳴零言

 さて、今回からは夢に関するお話です。

 ◆ ◇ ◆

 美奈子ちゃんという女の子がいた。
 この子は交通事故に遭って死んでしまったのだという。

 それからというもの、美奈子ちゃんが誰かの夢に現れるようになった。

 夢の中で美奈子ちゃんは───、

「右足はいらないの?」

 ───と聞いてくる。

 連日、夢の中に現れては、美奈子ちゃんは同じ質問を繰り返すのだ。
 もし、この質問に「いらない」と答えてしまうと───。

 翌日、交通事故に遭って、右足を失ってしまうことになる。

 この話を知った人の夢には、美奈子ちゃんが現れるという・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 「美奈子ちゃん」「足取り美奈子さん」などと呼ばれるお話です。

 主な派生系として、美奈子ちゃんが友達の夢の中に現れる、というものがあります。
 最初の内はいろいろと話しかけるのですが、同じ事しか繰り返さないため、だんだん苛立ちが募ります。
 数日後、思わず「いらない」と言ってしまい、その翌日、友達は事故に遭ってしまう。

 ───といったものです。
 他には「交通事故」ではなく「足を切断してしまうような事故」の場合。
 一回の夢で「延々と聞かれ続ける」場合と「一回だけ聞かれる」場合。
 などといった、定番の派生系が見られます。

 もちろん、やり過ごすことができる派生系もあり、

「これは私の足だからあげない!」

 と叫んだら、美奈子ちゃんはそれ以来出てこなくなったそうです。

 良くも悪くも、命だけは助かるお話です。
 ですが───。
 もし、思わず「いらない」と言うように、意識を誘導されてるのだとしたら・・・。

 では、これにて九十四の語り「夢の中の女の子」了。


九十五の語りに続く

2012/06/12 初版




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百物語 九十五の語り
鈴鳴零言

 さて、これもまた夢にまつわるお話です。

 ◆ ◇ ◆

 赤いワンピースを着た女の子が出てくる夢がある。

 その女の子に、とても覚えきれないような道順を説明され。最後に白いドアがあることを教えられると、

「そこに私は居るから」

 と言って、女の子はいなくなってしまう。
 周りの景色はいつの間にか変わっており、説明された道順を思い出しながら進むことになる。

 しかし、やはりと言うべきか、道順を間違えてしまうこともある。
 その時は女の子の声が聞こえ「そっちはだめ」と、教えてくれる。

 なんとか白いドアまで辿りつき、ドアを開けると女の子に「来てくれたんだ」と言われ───。

 ここで夢から醒めればよい。
 しかし───。
 夢から醒めなかった場合、ずっと目を醒ますことはなく、夢の中をさまようことになる・・・。

 この話を聞いた人は、数日後、この夢を見るという。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 マイナーどころのお話らしく、見かけても文章表現が違っている程度でしょうか。
 「数日後」に夢をみる、という部分が「3日後」などというように変化していることもありますが、これは文章表現の範疇に入れてしまっても良い程度でしょう。
 また、色が伝聞過程で変化していることもありますが、「赤いワンピース」と「白いドア」が基本ではあるようです。

 どこが怖いというわけでもなく、不思議な夢、といった感が強いお話です。

 このお話でもそうですが、「夢から醒めなかった場合〜」「出会ったら殺されてしまう」といった結末があるお話があります。
 いわゆる「何で怪異に出会うとゲームオーバーなのに結果がわかるの?」という、無粋な人に茶々を入れられがちなお話です。

 この手のお話は「話の原型が体験者視点ではない可能性がある」ということです。
 例えば「呪った相手が〜という状況に陥って死ぬ」という呪いがあったとします。
 “呪いを実行する側”が内容を知っていればよいわけで、これを“呪われた人の視点”で話をすればいいのです。
 怪談としては夢が無くなりますが、暗殺依頼と結果報告でもいいわけです。

 他には、ある時、山で見つかった遺体があまりに無惨だった。
 普通の獣に襲われたものとは思えず、「こういう怪異がいたに違いない」という伝承が変化したもの、でもよいでしょう。
 事実は突然変異で巨大になったり、凶暴化した獣に襲われただけだった、かもしれません。

 このようにお話の原型を想像するというのも、怪談の楽しみ方の一つと言えるでしょう。
 深く考えずに楽しんでいた時とは、また違った発見があるかもしれません。

 では、これにて九十五の語り「赤いワンピースの女の子」了。


九十六の語りに続く

2012/07/10 初版




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百物語 九十六の語り
鈴鳴零言

 さて、夢に関わるお話として、このお話は有名なものの一つでしょう。

 ◆ ◇ ◆

 駅に向かって走っていた。
 時間的に最終電車ギリギリのはず───。

 ホームに駆け込むと、電車の明かりが遠ざかっていた。

 ───間に合わなかったか・・・。

 息を整えていると、静かに電車がホームに滑り込んできた。
 行ってしまったのが最終だと思っていたが、ダイヤの遅れがあったのだろう。
 今度こそ最終電車のようだ。

 乗り込むと、ボックスシートを独り占め出来る程度に乗客はまばら、という最終電車らしい混みかただった。
 ちなみにこの電車は、都心部の電車のように横掛けのシートではなく、対面固定のボックスシートになっている。

 席に座ると疲れから、すぐにうつらうつらとしてしまった。

 はっ、として目が醒めた。
 乗り過ごしてしまっただろうか・・・?
 窓の外を見るが、どの辺りなのか分からない。

 丁度良くアナウンスが流れた。

「次は引き裂き〜。引き裂き〜」

 変な駅名だった。
 なんだそれ? と思っていると、死神のような格好───黒いローブを纏った者が、車両の後部にいつの間にか現れていた。
 怪訝に思う間もなく、死神達は後部付近の乗客を引き裂き始めた。
 乗客の悲鳴が響くが、引き裂かれている乗客以外は俯いたまま、気にしている様子がない。
 自分も異常な状況の中でパニックになっていなかったのだが、それには気づいていなかった。

「次は抉り出し〜。抉り出し〜」

 再びアナウンスが流れた。
 引き裂かれた乗客の次に後方に居た乗客に死神達が群がり、今度は乗客の目を抉り出していった。

 次は自分も含まれていると予想できる。
 ここまできて、初めて逃げなくてはという気持ちになった。

「次は挽き肉〜。挽き肉〜」

 気づくと、巨大な肉叩きを持った死神達が周りにいる。
 振り上げられる肉叩きを最後に、観念して目を瞑った───。

 ───しばらく経っても何も起こらないことに気づく。
 そっと目を開けてみた。
 そこは変わらぬ電車の中だった。
 周りを見回すが、惨劇があった様子などまったくない。
 しばし呆然として、そして気づいた。
 夢だったのか、と。

 アナウンスが流れる。
 駅名は慣れ親しんだものだった。

 そんな夢を見たことも忘れた頃、再び最終電車に乗る機会があった。
 ぼんやりと窓の外を眺めていると、アナウンスが耳に入った。

「次は引き裂き〜。引き裂き〜」

 はっ、として車両の後部を見る。
 そこには死神達がいた。
 行われる惨劇。

「次は抉り出し〜。抉り出し〜」

 悠長に眺めず、ただひたすらに夢から醒めろと念じていた。
 最後まで見たい夢ではない。

「次は挽き肉〜。挽き肉〜」

 振り上げられる肉叩きを見上げ、今度は目を瞑らなかった。
 そして肉叩きが振り下ろされ───。

 気づくと、そこは何事も無い電車の中だった。
 思わず安堵の溜息を吐く。
 不意に耳元で、

「次はありませんよ」

 声が聞こえた。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 いろいろな派生系の見られるお話です。
 昔は「猿の電車」のタイトルが多かった気がしますが、最近は「猿夢」で見かけることが増えたように思います。
 主に見られるパターンは、以下のようなものが多いでしょう。

「無人駅から乗り込む」
「最初から乗っている」

 冒頭の部分です。
 駅で待っているところから始まるときは、構成が長めのときでしょうか。
 もちろん無人駅ではない場合もあり、無表情な駅員さんが居たりすることもあります。

「猿が運転する、スリラーカーを連結したような電車」
「普通の電車」

 電車についての設定です。
 「猿の電車」のタイトルのときは、アトラクションにありそうな、運転手と車掌がお猿さんの電車です。
 乗り物タイプのお化け屋敷に使われているようなデザインで表現されていることが多いようです。
 「猿の電車」のタイトルはこれから来ています。
 最近は猿が話にでてこなくなり、「猿夢」としてタイトルに名残がある感じです。

「車両単位」
「席単位」

 「猿の電車」の場合はある意味どちらとも取れる部分です。
 普通の電車で横掛けのシートだと「車両単位」、ボックスシートだと「席単位」になることが大体でしょう。

「黒っぽいボロ布を纏った小人」
「死神」
「フード付き黒ローブ」
「マシーンアーム」

 惨殺執行人の方々です。
 死神の定番のイメージであることが多いですが、小人という設定も見られました。
 猿がボロ布を纏っている、といった感じでしょうか。
 執行人が出てこないパターンで、「マシーンアームが天井などから出てきて惨殺する」という変わり種もありました。

「一回ごとに目覚める」
「直前まで場面進行後、目覚める」

 主人公が目覚めるタイミングです。
 「惨殺一回ごとに目覚める」ものと、「自分が殺される直前に目覚める」場合が主なパターンです。
 一回ごとに目覚める場合だと、次に見た夢で「目覚めるまでに時間がかかる」または「続きから始まる」といった具合です。

「また逃げるんですか」
「次はないですよ」

 お話の最後の部分です。
 台詞回しは概ねこの二つで、アナウンスの車掌の声であることがほとんどです。
 言われるタイミングは「夢から醒める直前」「現実に戻ってから」のどちらかになります。

「引き裂き」
「引きちぎり」
「抉り出し」
「挽き肉」
「活け作り」
「吊し上げ」

 惨殺パターンあれこれです。
 「抉り出し」はギザギザスプーンで目玉をくり抜かれるという演出が割とありました。
 「挽き肉」は肉叩きの他に、マシーンアーム版でミンチマシーンが出てくるのもあります。
 「活け作り」は内蔵取り出しや腑分けといった演出になります。

 ちなみに夢の中で殺されてしまった場合はどうなるのか?
 まず、「布団の上で、夢の通りの惨殺死体で発見される」という結末があります。
 もう一つは「現実では心臓麻痺で死んでしまう」というものです。
 それぞれ、「発見される」パターンと「言い伝えが補足される」パターンがあり、今回のお話のように「生き残れる」パターンを含めた三つが定番と言えるでしょう。

 また、夢に関わるお話として、「話を聞くと数日後にこの夢を見る」といった補足も定番です。

 では、これにて九十六の語り「猿の電車」了。


九十七の語りに続く

2012/07/24 初版




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百物語 九十七の語り
鈴鳴零言

 さて、夢の中では普段はまずやらないであろう、よく分からない理由で行動することもあります。

 ◆ ◇ ◆

 ある日、奇妙な夢を見た。

 場所は河原。
 そこで見知らぬお婆さんがしゃがみ込んで何かをしている。

 理由は分からないが、どうにも気になる。
 そこでお婆さんに訊ねてみた。
 すると「捜し物をしている」との答えが返ってきた。
 続けて「捜し物は何か?」と訊ねると、「小指を捜している」とのことだった。

 お婆さんの手を見ると───なるほど、小指が無い。
 普段なら捜し物の答えを聞いた時点で気味悪く思っているだろう。
 だが、この時はそんなことは露とも思わず、義務感や使命感といったものに駆られ、小指を捜すのを手伝うことにした。

 自分が小指を捜し始めると、お婆さんは捜すのをやめてしまった。
 小休止というわけでもなく、先程までと打って変わったように捜し始める様子が無い。
 普段なら理由が気になるかもしれない。
 だが、この時はまったく気にすることなく、一人で捜し続けた。

 一人で捜しかけること数時間───。
 捜し疲れ、諦めかけた頃───ふと、川を見ると、川上から流れてくる小指に気がついた。

 川から小指を拾い上げ、お婆さんに渡す。
 お婆さんはお礼の言葉をくれたものの・・・どこか残念そうだ。
 ここになって初めて気味悪さというものを覚えた。
 足早に河原を去ろうとすると、お婆さんの呟きが耳に届いた。

「あと少しだったのに・・・」

 この話を知った人は、一週間くらいの間にこの夢を見るという。
 そして、お婆さんの小指を見つけることが出来ればよいが、もし見つけられなかった場合は・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 「夢の中で捜し物を頼まれる」といったお話の一つになります。
 このお話も派生系があり、

「気味悪いと思いながらも、話の流れで捜すのを手伝うことになってしまう」
「脅迫されて、捜すのを手伝うことになる」

 ───といった導入や、
 お婆さんではなく、リカちゃん人形や、ビスクドールといった、

「人形に手伝いを求められる」

 ───というものもあります。
 捜し物は「指」の他、「目」を捜して欲しいといった場合もあり、
 また、人形の場合は「腕」や「足」を捜して欲しいといった変化も割と見られます。
 捜し物を見つけることが出来なかったときは、

「命を取られる(心臓麻痺か、何かしらの事故)」
「捜している部位を取られる(事故で失う)」

 ───といったものが定番でしょうか。
 よくよく見ると話の骨子は同じであるものの、人と人形の差によって、意外と別の話のように思えるお話の一つでしょう。

 では、これにて九十七の語り「お婆さんの捜し物」了。


九十八の語りに続く

2012/08/14 初版




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百物語 九十八の語り
鈴鳴零言

 さて、今回は霊よりも人が怖いというお話を・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ある学生が学校を卒業すると同時に自殺した。
 昔はおとなしかったが、卒業する頃はクラスの中心として活躍していると評されていた子だった───。

 ◇ ◇ ◇

 ある学校に、クラスの半数近くにいじめられている子───Aがいた。
 いじめの行動は、いわゆるハブられるものだった。
 なんでもかんでもハブることはなく、授業の連絡等、そういった用事“だけ”は事務的にこなしている───もっとも、いじめてはいないが、特に交流のないクラスメートや委員に任せている───と、追及されても単に“消極的で接する機会がなかった”だけで済んでしまう。
 このタイプのいじめは実質発覚することがない。
 概ね、おとなしかったり、消極的な子が対象になるため、別にいじめていない相手とも交流する機会も少なく、自然と孤立している状態になると言える。

 ある日、いじめグループの中心的な子が、

「お前はもっと輝くべきだ」

 と言いだした。
 「地味にしているのはもったいない」と言った感じでもてはやされ、わかりやすく“シャイン”という渾名が流れで決まる。
 少々とまどいもあったが、もてはやされて悪い気もしなかった。

 その日以降、クラスの中心として持ち上げられるようになり、卒業まで楽しく過ごせたのである───。

 ◇ ◇ ◇

 卒業の時、Aはクラスの皆から書き寄せの色紙を贈られた。
 その時、Aは自分がいじめられていたことを知ったのである。

 色紙には普通の書き寄せの他に「SHINE」「シネ」「死ね」と言った言葉が書き連ねられていた。

 そう───「SHINE=輝く」とは「SHINE=死ね」をかけた隠語だった。

 渾名はその意味を知らないクラスメートも使うのが普通になっていた。
 意図せずにクラス全員がいじめを行なっていたことになる。

 そのことに思い至り、Aは自殺にまで追い込まれてしまったのであった・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 霊より人が怖いというお話の一つです。
 しかも非常に質が悪いものであり、その気がなくても、知らず知らずのうちに加害者になっているというものです。
 もし自分が加害者になってしまったら・・・。
 至って日常に転がっていそうなシチュエーションです。

 この「SHINE」というネタ自体は、サスペンス系の物語に“勘違いの元”となるファクターとして出てくることがあります。
 一般的な怪談の類ではなく、人が怖い系のため、霊的な話を追っていると見かけないものでしょう。

 では、これにて九十八の語り「SHINE」了。


九十九の語りに続く

2014/04/29 初版




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百物語 九十九の語り
鈴鳴零言

 さて、今回は百物語を語ると一度は出てくるお話になります。

 ◆ ◇ ◆

 壁一面が障子の戸で壁となっている昔ながらの広い和室。
 電灯を消し、明かりは蝋燭のみ。
 そこで十数人の面々が百物語を行なっていた。

「───そこには泊まった人を殺して食べてしまうという噂があったんだ。泊まった人は、ここみたいな昔ながらの家だからそういう噂が立ったんだろう、ぐらいにしか思わなかった」
「だけど、少しは噂が気になっていたのか、夜中になって寝苦しさを感じて目を覚ましたんだ。その日は満月だったせいか、障子を通して外がすごく明るかった」
「目が冴えてしまったのでそのまま寝転がっていると、しばらくしてキシリキシリと廊下が軋む音が聞こえてきた」

 キシリ───キシリ───

「音のするほうを見ると障子に人影が映っている。人影は少しずつ自分の方へ近づいていたんだ」

 ふと誰かが気づいた。
 話し手の背中側は障子が部屋と廊下を仕切っていて、部屋が暗いせいで廊下にいる誰かの人影が障子に映っている。

「近づいてきたことで人影が何かを持っていることに気づいたんだ」

 一人、二人と人影に気づき始めた。
 障子に映る人影も何かを持っている。

「なんだろう? と思っていると、寝ている前で影が止まった」

 話し手以外、全員が人影に気づいていた。
 障子に映る人影が話し手の後ろで止まる。

「障子が音もなく───すーっ───と開いた」

 話し手の後ろで障子が音もなく───すーっ───と開く。

「開いた障子の間から出刃包丁が月明かりに照らされて───」

 開いた障子の間から出刃包丁が見え───。

「みなさん。おやつですよ〜」

 ───のんきな声に話し手以外の腰が砕けた。
 話し手は普通に「ありがとうございます」などと返していた。

 後日、その話で盛り上がっていた。
 なにしろ怪談にシンクロするように起きただけに盛り上がりもひとしおだった。

「そういえばあの時は誰が話してたんだっけ?」

 蝋燭の暗がりの中で話していたので、顔がしっかり見えたわけではなく、また友人の友人も集めたものでもあったので初顔合わせの者もそれなりにいたのだ。
 誰だろう? と皆がそれぞれ確認すると、誰も知っている者がいなかった。
 必ず誰かが知っている人しか居なかったはずだったのに・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 主に百物語や怪談語りをしたときに、気づくと人数が「一人多い」「一人少ない」というお話の一つです。

 修学旅行などの不特定多数で集まったときに気づくとアレ? となるものや、百物語を録音したものを聞き返していて気づいたなど、細かいシチュエーション違いが多いお話です。
 また、百物語の背景があると、九十九話目や百話目に絡んでいることも多く、それ以外だと座敷童子が混じって遊んでいた、みたいなパターンも見受けられます。
 シンプルなものでは、学校の教室で人数を数えたときにどうしても数が合わない、というものもあります。

 皆がワイワイと集まっていると、いつの間にか加わっている「誰かさん」は意外なほど身近にいるのかも知れません。

 では、これにて九十九の語り「一人・・・。」了。


百の語りに続く

2014/05/13 初版

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