『雪歩さんとラジオの仕事』
なんだかんだと申しましても、テレビの影響力とはすごいものでして、雪歩さんの「脇の下おにぎり」がすっかり有名になってしまいました。
ものすごく熱いのでよい子の皆さんやおっきいお友達はマネしちゃいけません。
アレな趣味のお父さんも、お母さんに作らせないようにご注意願います。
「ウチの妻が無駄毛の処理を出来なくなりました」という苦情(?)がたまに局に届くそうです。
それくらい有名になってしまったわけです。
お笑い界の大御所、地村けんさんの特番「アホ殿様スペシャル」に呼ばれた雪歩さんは、ガチョウ倶楽部の上鳥ヘビ兵さんと壮絶なバトルを繰り広げて、めでたくレギュラーの座も射止めました。
【雪歩】
「あ、あつい・・・あついですぅ〜」
【リーダー】
「まずい、雪歩ちゃんが一歩リードだ。よしっ! 俺がこの沸騰したおでんを顔でリフティングするぞ」
【土門ドモン】
「そんなことリーダーにさせられないよ! 俺がやるって!」
【リーダー】
「いや、ここはリーダーの俺が・・・」
【上鳥】
「よし、俺がやるよ」
【リーダー&ドモン】
「どーぞどーぞ」
【上鳥】
「おいっ!!!」
などと、お約束が繰り広げられつつ・・・
【上鳥】
「あちゃちゃちゃちゃっ! 汁物をくっつけるなって!」
世にも珍しい脇おにぎりvs顔面おでん対決でした。
絵的にも雪歩さんの圧勝ですよ。
顔にはんぺんくっつけて転がり回るおっさんに勝ち目などありません。
【やよい】
「すごいですよ、雪歩さん。ゴールデンですよ、ゴールデン♪」
【雪歩】
「ううう・・・何だか目指してた世界とずいぶん違うところに来てしまいました。どうしてこうなったんでしょう」
【P】
「まあ、あれだね。カワイイ雪歩さんが健気に体を張るところがファンの目を引きつけたわけだし、露出が増えた事でこれまで出してきたCDもPVも売り上げが伸びてるわけだから」
【雪歩】
「べつに体を張りたいわけじゃないのですが・・・はぁぁぁぁ、穴掘って埋まりたいです〜」
【小鳥】
「雪歩ちゃんと美希ちゃんのここ数週間のファン増加数はすごいですよ。あの冬本さんがプロデューサーさんの事を褒めていました」
【P】
「えー、冬本さんが褒めてくれたんですか」
【小鳥】
「雪歩ちゃんがバラエティに強いと思ったボクの目に間違いはなかったね。ただインパクトが弱かった所をやよいちゃんとのコンビを成立させたPちゃんの機転、アッパレだよ。雪歩ちゃんの可愛さがフレームに収まる、ドキドキさせておいて、やよいちゃんの天真爛漫な応援が入る、再び雪歩ちゃんが放送コードぎりぎりで頑張る、映せなくなりそうなところでやよいちゃんがあっけらかんと入り込む・・・まさにヘビィ〜ローテーションじゃないかあ・・・って言ってました」
Pちゃんはヤメロ・・・。
【P】
「ははは、あれは本当に偶然だったんですけどね」
しかし、冬本Pは見る目がすごいです。
偶然でも必然でも数字に繋がった効果は全部、冷静に分析するようです。
それを小鳥さんに惜しげもなく説明するあたりもヤリ手っぽいですよ・・・いろいろな意味で。
当然、「ことりんも歌っちゃう?」って誘ってたはずです。
さすがはアシュラメンの悲しい顔、とてもかないません。
【やよい】
「うっうー、雪歩さんやプロデューサーさんのお役に立てて嬉しいれぅ」
【雪歩】
「日本をまっすぐ掘り進んで行けばブラジルに着くはずなのに、なぜかトンガに出た・・・そんな気分です」
まったく意味不明ですよ、雪歩さん。
それ穴掘って埋まるレベルではなく、トンネル開通させてます。
でも、心なしか、以前より明るくしゃべるようになってきたのはもの凄く良い兆候だと思います。
前は話していると、どんどん後ろに下がっていくし、うつむいていくし、距離が離れていったものです。
プロデューサーというよりも不審者扱いに近かったような・・・。
アイドルランクも一気にCランクでテンションも急上昇ですね。
【小鳥】
「そうそう、ちょうど美希ちゃんと雪歩ちゃんにラジオのゲストに来て欲しいって依頼が来ていますよ。どうしますか?」
【P】
「どうする雪歩さん?」
さすがはCランクアイドルになった雪歩さん。
一応、選ぶ権利が与えられています。
それだけ多くの仕事があるってことです。
レギュラー番組があるので、さらに余裕が出るのです。
Fランクのやよいちゃんにはそんなものはありません。
仕事を選ぶことも出来ますが、たいてい他の仕事がないので、やるかやらないかの選択だけで、やらなければノンギャラという厳しい世界なのです。
【雪歩】
「どんな番組なんですか?」
【小鳥】
「爽やかな午後のひとときにケーキとお茶をいただきながら最新のファッションや音楽の話をするんですって。これ、今、人気の目黒川ミサさんがDay-WAVEでやってる番組ですよ」
ほほぅ、それはオサレです。
目黒川ミサさんと言えば、女性に大人気のDJさんじゃないですか。
それに深窓の令嬢的シロガネーゼファッションな雪歩さんにはぴったりですよ。
【やよい】
「でいうぇ〜ぶ?」
【P】
「FM局だよ」
【やよい】
「うっうー、家のラジオはFM入らないから聞いたことないですぅ」
やよたん・・・アイドルとしてそれはどうなのよ。
今度、ロケバスや送迎車に乗ったら、なるべくFMラジオをかけてあげなければ。
お、雪歩さんはニコニコですね。
これは受けて問題ないかな。
【P】
「えーと、雪歩さん?」
【雪歩】
「はい♪ ラジオですから映らないですよね。でも、ちょっとオシャレして行こうかと・・・」
全力O.K.っと。
【P】
「じゃぁ、小鳥さん。お願いします」
ラジオ出演、当日。
オレと雪歩さんは無言で放送局に入りました。
残念ですが、今日はやよいちゃんが番組を見学に来ることは出来ませんでした。
深夜ラジオだったからです。
13歳のやよいちゃんには事務所からNGが出ました。
ちなみに日本ではテレビだと21時以降に未成年者が出演してはいけないことになっています。
紅白歌合戦も24時間テレビも21時になると573プロのアイドル達はあらかた出られません。
出演していないのに、深夜の打ち上げになぜか未成年者がいたりしますが、まあ、それはそれで・・・。
どういうわけか深夜放送や深夜ラジオに出ていたら、それは「収録だった」ということですよ。
生放送だった場合には、Vを入れた(収録済みのVTRだった)っていうことになります。
そういうことにしておいて下さい。
日本のエラい人々。
【梅山】
「どーも、ハプニング梅山です。受験生の皆さん、カンニングすんなよっ! さて、人気絶頂の雪歩さんにダメ元でオファーしたんですが、本当に来てもらえました!」
例の低俗なテレビ番組で共演した、キレ芸で有名なハプニング梅山がパーソナリティを務めるラジオ番組でした。
深夜番組です。
AM放送です。
雪歩さんは立ったまま気絶しそうな顔してます。
オサレなFM局の午後のひとときがうんぬんは美希ちゃんへのオファーだったようです。
おのれ、ことりん!
ワザとだろ、ワザと!!
あとでおしおきです。
【P】
「よくもだましてくれたな、ことりん!」
【ことりん】
「だって、ああでも言わないとオファーを受けないと思って・・・」
【P】
「うるさーい!(ビリビリビリ)」
【ことりん】
「きゃぁ〜ん」
【P】
「なんだ、このけしからん下着は! よ〜し、これからこの(以下、自主規制)」
イッヒッヒ
ま、オレの妄想の中で、ですが。
【雪歩】
「あ、あの番組のタイトルですが・・・」
【梅山】
「『全裸でやるラジオ』ですがナニカ?」
キターーーーー!
キング・オブ・深夜ラジオです。
全国の男子中高生の皆さんお待たせしましたーって感じですね。
オレは今でもバッチリ聴いてますが。
この番組タイトル最高です。
梅山さんはどうでも、ゲストも脱いでるような気がして、聴いてるだけでセルフ・パーフェクトコミュ・・・
【雪歩】
「プ、プロデューサーさん・・・」
おっと雪歩さんが助けを求めるような目をしています。
待ち望んだエ○本がアゾマンから届いたら、配送ミスでホモ本だった・・・人でもここまで絶望的な顔はしてないでしょう。
雪歩さん、アイドルオーラがナッシングです。
これは安心させてあげなければ。
【P】
「別に雪歩さんが脱ぐとかじゃなくて、あくまでそのノリでって事だから」
【梅山】
「ん? あーだいじょうぶですよ。ラジオなんで、リスナーには見えないんで。多少はネタでキツい事、言っちゃうかもしれないですが・・・そのあたりはバカ芸人がムリヤリ盛り上げるために勢いつけてると思って流して下さい」
【雪歩】
「ホッ・・・。そうなんですか、良かった。梅山さんも丁寧な方みたいで」
たしかに梅山さんはあの番組収録の時、他事務所のアイドルさんが口で作ったスペシャルカクテルを頭から浴びて大騒ぎしていたわけで・・・。
イメージとはずいぶん違うんでしょう。
実際には、やたら声を張り上げるキャラと違って、どえらく丁寧な気遣い派のようです。
ま、楽屋まで、本番前までは、の話ですが。
【梅山】
「あはは、キレ芸がウリなんで。じゃあ、本番はよろしくお願いします」
【雪歩】
「あ、はい。よろしくお願いします」
ふふふ、雪歩さん。
すっかり安心していますが、深夜ラジオの恐ろしさをまったく分かっていませんね。
リスナーは中高生の男子がターゲットです。
一番、モンモンとしている世代ですよ。
言うなれば、エブリデイ・オレ。
未だに何を見てもモンモンとしてるオレですが、奴らにはかないません。
今ではすっかり老いたワシでござるよ。
せいぜい、一日2回です。
あの野郎どものパフェコミュ回数は多くて10回、風邪引いてても3回はティーン♪ と来れます。
オイラが中高生の時には、17回という金字塔を打ち立てたものです。
翌日、歩くだけでも擦れて痛く・・・まあ、いいでしょう。
そんなことはどうでも、きっとエロい質問が来ているに決まっています!
ってかオレもしました。
おっと梅山さんも、雪歩さんもブース入りしてスタンバイO.K.です。
BGMの準備も出来てる感じですよ。
わくわくしてきました。
「はい、本番入りまーす」
テクニカルディレクターさんのかけ声で、スックと梅山さんが立ち上がりました。
これはのっけから来るか!?
おもむろにブースの前に仁王立ちです。
【雪歩】
「?」
3・2・1・キュー!
【梅山】
「ハプニング梅山の全裸でやるラジオ!」
エコーのかかったオープニングを叫ぶと、梅山さんはオレの方を向いてニヤリ。
キターーーーー!
あんた男だぜ!!
着ていた服を一枚、また一枚と脱ぎだしましたよ。
梅山GJ!
【雪歩】
「フ、フヒー、フッヒー」
声にもならない奇声を発しつつも、雪歩さんの視線は股間に釘付けです。
くそー。
オレも脱ぎてー!
雪歩たんに見せつけてえええええ!
【梅山】
「今日は最高に輝くスーパーアイドル、萩原雪歩さんがお前らのオナペ○トになってくれるぜ!」
【雪歩】
「ふえええええ、ちょ、ちょっと待って下さいっ! なんで裸になってるんですか〜」
【梅山】
「全裸でやるラジオだからに決まってるだろうがぁ! おい、リスナーの皆、オレは今、アイドル雪歩ちゃんの前で全裸になってるぞ。オマイらもラジオの前で全裸になれっ!」
キターーーーー♪
うんうん、目に見えるようだぞ〜。
リスナーのアミーゴ共がラジオ前で脱いでる姿が。
雪歩たんに見てもらうんだ〜♪ という嬌声が聞こえるようだぞ〜。
オ、オレも脱ぎてー!
ここが放送局でなければオレだって全裸になりてええええ。
お!
スタッフも口惜しそうな顔をしてるじゃないか。
皆、同じキモティなんだネ。
雪歩たんに見せつけたいのに脱げないから悔しいんダネ。
【雪歩】
「フヒッ、お、おイモがっ・・・巨大なおイモが・・・」
ふっ、イモの大きさが決定的な戦力差ではないことを教えてやりたいものだ。
【梅山】
「本日、一人目のメールだ。雪歩さんの脇おにぎり食べたいです。東京都22歳の匿名希望!」
いきなりオレの投稿キターーーーー♪
俺も食べたいって頷いてるぜ、梅山さん。
あんた、分かってらっしゃるよ。
【梅山】
「続いて、埼玉県の高3、ラジオネーム・雪歩さんのぱんつになりたいからクイズだ」
【雪歩】
「は、はいっ」
【梅山】
「特急列車は男か女か?」
これは難題ですよ。
さすが、受験勉強そっちのけで全裸になってる高校生は違います。
【雪歩】
「ふええ・・・男の人?」
【梅山】
「なんで?」
あ、ティーン♪ と来ました。
ウンウン、男ですな。
隣のADさんに耳打ちすると、さっそくカンペに書いて雪歩さんに見せてます。
さすがです!
イイ仕事してますね〜。
【雪歩】
「えっと、駅を飛ばすから男の人・・・」
【梅山】
「正解っ! お・ま・え・らーっ! あのアイドル雪歩さんが液を飛ばすとか言ってくれたぞー」
【雪歩】
「フ・・・フフ、フヒー」
あ、雪歩さんがオーバーヒートした。
さては、雪歩さん・・・。
意味が分かってますね。
【梅山】
「続いて、東京都の中2、ラジオネーム・春閣下に踏まれたい」
【雪歩】
「踏まれたい?」
【梅山】
「俺も踏まれたいです!」
オレも踏まれたいですっ!
あ、スタッフ達も切実に踏まれたいって顔してますYO!
そうか、そうなんだネ。
リスナーの皆も踏まれたいんダネ。
分かるよラ○ァ・・・分かるよ、みんなが・・・。
【梅山】
「もう一つ、問題。ナイチンゲールは男か女か?」
【雪歩】
「ふつうに女の人ですぅ〜」
【梅山】
「惜しいっ!」
うむ!
ADさん、カンペだっ!
これを言わさなければ、プロデューサーとして失格になってしまう。
【雪歩】
「えっと・・・チンがないからナイチンゲール・・・穴を掘って埋まってきますぅぅぅ!!」
・・・
楽しい、楽しすぎるぜ深夜ラジオ♪
ぜひ、レギュラーになってほすいです。
いつの日か、やよいちゃんもこの番組に出演しようね。
・・・『全裸でやるラジオ』は春の番組改編で打ち切り終了となったため、やよいちゃんが出演する事は出来なくなりました。
1話に続く
2011/04/14 初版
2011/07/31 第二版
2011/09/01 『にじファン』に転載
→『にじファン』サービス終了(2012/07)
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