『真美ちゃんからの相談』
律っちゃんPに頼まれて、亜美真美ちゃんをダンススタジオに迎えに行ってからというものの、なぜだか亜美真美ちゃんの送り迎えはすっかりオレの仕事になってしまいました。
全てはメガ・・・いや、律っちゃんPのワナであったと言わざるを得ません。
あの野郎は、人に仕事を押しつけておきながら、「KNM」を守れとか言いやがります。
KNMですよ、KNM。
何かって?
「嗅ぐな・舐めるな・持ち帰るな」って、おい!
人生を閉ざされた感じです。
即、社長に報告されるという恐怖に怯えながら生きています。
今日も今日とて、亜美真美ちゃんにやよいちゃんも乗せて、都内をぐるぐるとスタジオ回りです。
オレは幼稚園バスの運転手じゃねーっつうの!
3人は後部座席で、お菓子を広げてワイワイと騒いでおります。
ちなみにお菓子はオレが細かい注文を亜美から受けて買ってきましたよ。
【亜美】
「よーやっとニソテソドー3D乙を購入出来たよ〜。3時間も並んだよ〜」
オレが並んだんだ、オレが。
亜美は車ン中で寝てたじゃねーか!
【やよい】
「おおっ、すごいです・・・ところで3D乙ってなんですか?」
【真美】
「ちょっと、やよいちゃん。3D乙知らないの?」
【やよい】
「うっうー、私はIT関係は弱いんです」
やよいちゃん、3D乙はIT関係じゃないですよ。
インフォメーション・テクノロジー的な機能は付いていますが、どちらかというと思い切りゲーム機ですYO!
【真美】
「ケータイゲーム機だよ。モソスターハソターとか知らない?」
おいおいモソハソはP乙Pだろ!
3D乙と言えばやはりラブマイナス。
これに限ります。
名前で呼んでくれます。
いつでもどこでも画面を開けばそこにマイラヴァーがいるわけですよ、ウホホ♪
ゲームと言えばギャルゲーです!
それ以外のゲームはただのプログラムです。
モソハソなんぞ、想像も付かないゲームですよ。
どうせ1年後には「G」が出ますよ。
それまで我慢です。
上位クエストなんかに興味はありません。
お供猫が2匹だぁ!?
温泉だぁ!?
村クエをやってる暇があったら、オイラはマイラヴァーと旅行に行きますね、ムホホ♪(←実は行き詰まっている)
・・・
そんなこんなで、子供向け番組の収録に亜美ちゃんとやよいちゃんをスタジオに送り届けました。
2人ともまだまだ入り待ちがいないので、本当に送り届けるだけだから楽なもんです。
人気が出てくるとスタジオ入りするのを待ちかまえるファンがいて大変だったりします。
スタジオから出て行くのを見届ける出待ちファンまで出現するので、さらに大変になったりもします。
この2人にもそうなって欲しいとは思っていますが。
真美ちゃんは暇になってしまうので、やよいちゃんと亜美ちゃんの収録が終わるまで、都内をドライブでもしようか、という事になりました。
双海亜美という名でデビューしているので、出演するのは1人なのです。
双子でそっくりなので、2人して1人の芸能人をやるという、1足のわらじを2人で履くという離れ業ですな。
ちなみに現場はでこっぱちと共に先入りしていた律っちゃんPにおまかせです。
ケケケ、働けやメガネ。
【真美】
「ファンの間では、いおりん、亜美にやよいちゃんで、573のロリトリオって呼ばれてるんだって」
ほほぅ。
年齢的には美希ちゃんも含まれると思うのだが・・・。
【真美】
「んー、ミキミキはナイスバディだから、そっち方面のマニアにはウケが悪いんじゃないかな」
いやなマニア共だな。
だいたい胸のサイズで言ったら、ウチの事務所で一番のつるぺたは千早さんですよ。
まったくわかってない!
横から見たら、明らかに肩胛骨の方が出てますYO!
リアルエクソシストかと思って、ビビったことさえありますとも。
今のところ、あまり一緒に仕事をした事はありませんが、あのスレンダーボディにツンツンした顔というコンボが、つるぺた道に光明を見せたと言っても過言ではございません。
起伏ゼロ!
ふっ・・・ぐっとくるものがあるじゃありませんか。
成長期にある、でこっぱち&亜美たん&やよたんはこれからまだまだバインバインになってしまう危険性が高いのです。
その点、成長しきってもフラットバディな千早さんは完成形にして最終形態♪
そりゃもうつるぺた研究家としては・・・。
【真美】
「えー、兄ちゃんロリなの?」
【P】
「フハハ! わかってないのう。ロリではないのだ。大人なのにムネがない。だが、それがイイっ! 地球の重力に引かれる哀れな人類はつるぺたにこそ・・・って何で!? 何も言ってないのに! 真美ちゃんもニュータイプかぁぁぁ!?」
【真美】
「思いっきり、口に出してしゃべってたよ」
どうやら考えていた事を全部、話していたようです。
せっかく築き上げてきた真美ちゃんの信頼度が大きくダウンですね。
orz
【真美】
「いいよ、別に。真美はあんまりそういうの気にしないから。兄ちゃんみたいにストレートな方がまだマシだよ」
聞けば、業界にはアイドルをいやらしい目で見る人ってけっこう多いそうで・・・。
真美ちゃんも苦労しているようです。
まあ、昭和のプロデューサーなんか、一人でエレベーターを独占してみたり、大御所相手にちゃん付けで呼んでみたり、可愛い子との打ち合わせは2人でしたがったりとアホが多いようでしたが。
大御所がつけ上がらないという意味では、ちょっとありがたい存在でもあったみたいですが、今時のプロデューサーは芸能人をちゃん付けなんてありえません。
韓国くらいなもんです。
トドメに小娘のゲーム機を買うために寒空の下で3時間も並んだりするのです。
全国のP、がんばろうな!(キラーン)
話が逸れました。
【真美】
「そうそう、冬本Pとかぜったいにロリだね、あれ」
こらこら、とんでもない事を言うものではありません。
真美ちゃんとは別のまみまみと結婚したくらいでロリ呼ばわりはいけませんて。
【真美】
「性犯罪で捕まったら、“いつかやるって思ってました”ってインタビューで言ってあげようと思ってるんだ」
オレも最大限に気をつけようと思います。
しかし、それはそれとして、ほわほわ笑う真美ちゃんも実に可愛いです。
会話の内容がかなりアレですが、やよいちゃんとはまた違う子供っぽい魅力が溢れています。
【P】
「せっかくレッスンして歌も覚えたのに、本番は亜美ちゃんが担当する事が多いんだね」
【真美】
「ん〜、それは仕方ないよ。2人で一緒に出演するわけにはいかないし、私が仕事する時も双海亜美としてやってるわけだから」
仕事を分担する事で、1人にかかる負担を減らせます。
小さい子供や動物タレントなどではよく行われていることです。
某ンフトバソクのお父さんも2匹います。
奴らはワンコなので、仕事がない方は単に楽なんでしょうが、亜美真美ちゃんは人間なので、真美ちゃんは影武者的な立ち位置です。
【P】
「そっか。真美ちゃんは真美ちゃんですごく魅力的なんだけどね」
【真美】
「んっふっふー。兄ちゃん・・・。真美なんかを口説いてどうするつもり? やっぱりロリな人なの?」
子供っぽいのに、時としてドキリとするような事を言ってきます。
こういうところは亜美ちゃんとはずいぶん違って、妙に大人っぽい雰囲気がプラスされてます。
【P】
「ちがうちがう。ロリっ気があるのは認めるけど、ここで言ってる魅力ってのは、アイドルとしての真美ちゃんの魅力の事だよ」
【真美】
「私の?」
【P】
「オレもまだまだプロデューサーとして半人前だけどね。真美ちゃんには亜美ちゃんと違った魅力がたくさんあるなって思ってたんだよ」
【真美】
「そうなんだ。・・・ちょっと嬉しいな」
【P】
「嬉しい?」
【真美】
「うん。皆、真美の事を見ても亜美ちゃん、亜美ちゃんって言うでしょ? 仕事だから、仕方ない事だから、双海亜美としての人気なんだって思っていても、ちょっと寂しい時があったんだ」
【P】
「律っちゃんとそういう話はしないの?」
【真美】
「んー、律っちゃんもプロデューサー業を始めて、いおりんと亜美に振り回されてて大変だと思うから・・・」
真美ちゃんは真剣な表情です。
これは適当に聞き流すような話じゃありませんよ。
この年齢で、こんな寂しそうな顔をするなんていけない事です。
何より、これだけ周囲に気を遣う子が、本心を話してくれたんですから。
【P】
「なあ、真美ちゃんはこれからどうしたい?」
【真美】
「双海亜美として、亜美と2人でどんどんアイドル街道を・・・」
【P】
「そうじゃなくてさ。双海真美としてちゃんとデビューしたいと思ってる?」
【真美】
「そりゃそうだけど・・・。でも、亜美や律っちゃんに迷惑が・・・」
【P】
「誰に迷惑かけるとか、オレの前ではそういう事は気にしないでいいから」
【真美】
「・・・」
オレも一応はプロデューサーとして仕事してるしね。
趣味は趣味!
嗅ぐ時は嗅ぐけど、仕事は仕事。
信頼してくれなければ、たぶん、あんな表情はしなかったはず。
アイドルから信頼されたなら、全力でプロデュース!
それはプロデューサーになる時に決めた事ですとも。
会ったばかりのオレなんかを信頼してくれた子がいるって分かった、あの時から。
【P】
「実はこの前、社長からやよいちゃん、雪歩さんに続く3人目の担当を持つようにって話をもらってね」
ケガの功名か、雪歩さんの活動は軌道に乗ったと言っていいのですよ。
バラエティ中心だけど。
やよいちゃんに関しても、子供番組から、雪歩さんと共にバラエティ番組まで、出演のオファーが幅広く入るようになって来たのです。
これはどんな仕事が来ても、絶対にイヤと言わないやよいちゃんの性格によるところも大きいですが、デパート、遊園地、地方のイベントなど、確実に仕事量は増えてきているわけです。
【真美】
「社長さんから?」
【P】
「そう、あのいつも逆光で真っ黒な人から」
【真美】
「それって真美としてデビューするって事?」
【P】
「そう、その担当者にオレがなるって事。真美ちゃんが了承すればだけど」
【真美】
「・・・」
【P】
「今までの実績はゼロになる。あれは双海亜美としての活動だからね。双海真美としてランク外からのスタートになるよ。それでもいいなら」
【真美】
「・・・ひどいよ、兄ちゃん」
【P】
「・・・」
【真美】
「したいに決まってるじゃん。本当はずっと言いたかったんだよ。双海真美はここにいるって!」
【P】
「ごめん、兄ちゃんが鈍感だった」
そりゃそうだろうと思いました。
彼女は相方にそっくりのワンコじゃないのです。
一人の人間なんですから。
ってか、いつの間にかリアル兄ちゃんになってますが。
【真美】
「本当にデビューしていいの?」
黙って彼女に見せたのは、こういう事もあろうかと作っておいた「双海真美−スケジュール及びプロデュースメモ」と表紙に書いた、中が白紙の専用手帳。
ディープなファンなら、もう気付いているはずですしね。
<双海亜美ちゃんは2重人格か? ってくらい、番組でキャラを使い分ける子>
ってね。
もう後には引けません。
気がついたら、スタジオから相当、離れていたことは内緒でございます。
話に夢中になってて、2回くらい左折したような記憶はあるのですが、どういうわけか都外にいました。
・・・
その日の夜、意を決して社長室に乗り込みました。
「遅くまでたいへんだったね」と言う社長は、街の明かりを背にしていて、例によって表情が見えません。
ってか真っ黒です。
オレが何時に事務所へ戻っても、必ずいる人です。
いつ寝てるんだろ?
ストレートに双海真美の担当をしたいと言いました。
【社長】
「うむ。いいねぇ、どんどんやってくれたまえ」
大きく頷いて、あっさり許可をくれました。
双海亜美は2人で1人役だがどうするのかね? くらいは聞かれると思っていたので、ちょっと拍子抜けです。
実は全てを見越していたんだと思います。
どこまでも大きく、器のデカイ人なんだと改めて思いました。
ふっ・・・かなわねぇぜ、社長。
【社長】
「しかし、アレだね。私はてっきり星井美希君をプロデュースしたいと言ってくるものだと思っていたのだが・・・」
【P】
「彼女には小鳥さんが付いています」
【社長】
「・・・そうだね。冬本君も星井君のために新曲を作ったと言っていたよ」
【P】
「それはありがたいですね。冬本Pの曲ならヒット間違いなしですよ。オレが担当するより、冬本さんの方が美希さんのためになると思います」
【社長】
「・・・」
【P】
「え、えーと、数字が・・・そう、数字が付いて来ると思います」
【社長】
「うむ・・・ならば、そういう事にしておこうか」
【P】
「は、はい」
少しだけ、自分の心にウソをつきました。
この日から、オレは音楽についての勉強を始めました。
やよいちゃんや真美ちゃんを絶対に一流のアイドルにする。
そう誓いました。
ええ、誓いましたとも!
・・・あ、雪歩さんの事は忘れてました。
17話に続く
2011/11/01 初版
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