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トキめいてるじゃん! 〜冬の特別編〜 (4)
山崎かおり

 この物語の全ての始まりは、部活の休憩中にトイレの中で、僕が不用意に発してしまった一言から起こったことだった。

「そう言えば、藤倉副部長って、たしか明日が誕生日なんですよねえ」

 この言葉は、そもそも横にいる部活仲間の雨宮賢に対して、ただ黙って用を足しているのも何だったので発した世間話程度のものだった。

「そっかぁ。だったら、せっかくだし、明日、部活が終わったらクリスマスと忘年会も含めてお祝いでもしてあげようか」

 雨宮が前を向いたまま、僕に言った。
 彼だって、この時はそんなに深くは考えていなかったに違いない。
 しかし、次の瞬間、大便用の個室の扉が音を立てて開け放たれ、香しいと言うにはほど遠い臭気が漂ってきた。
 なぜか、決めポーズ(しかもサタデーナイト・フィーバーだ)で仁王立ちしている藤宮先輩が現れて、この物語は大きく流れ始めたのである。

「よっしゃ〜っ。それは面白そうだ! 中瀬、よく気が付いた。雨宮、ソッコー城沢を呼んでこい!!」

 この時、僕は“とりあえず流したらどうですかね、先輩”の一言が、恐くて言えなかった。




 とりあえずは、先輩のアレも無事に流されて、雨宮が城沢部長をトイレまで連れてくると、この場は緊急作戦会議室へと変貌していた。
 ドアの前には「故障中」の張り紙、どこから調達してきたのか、中にはパイプ椅子が4つ、ホワイトボードまでが運び込まれている。
 「何をやるにも徹底的に」は、ムサ中演劇部のモットーの一つだ。

「なるほど、藤倉さんのお誕生日会ねえ…さて、どうしたものか」

 城沢部長は、なにやら面白そうにニヤニヤと思案を始めた。
 並外れたマイペースさとゆっくりとした話し方で“昼行灯”の異名も高い部長は、その印象とは裏腹に、実はかなりのキレ者だと僕は思っている。
 一瞬にして全体を把握できる能力を持っているらしく、演劇に限らず、何かを計画すると、その時点で終末までを筋道立ててイメージできるのだと思う。
 変わり者だが、尊敬している2年生の先輩だ。

「どうせなら、派手な方がいいだろう。大がかりにやってやろうぜっ!」

 藤宮先輩は、その目を輝かせて力説した。
 この人の場合、お祭り事が好きで好きでたまらないらしい。

「会場とかどうします。予算とか決めなきゃマズイだろうし」

 雨宮が言った。

 演劇部の台所事情は、藤倉さんの管轄だから、彼女にナイショでビックリパーティーをやろうとすれば、こうした細かいところまですべて自分達でやらなければならないことに気が付いたのだ。

「そうですねぇ。部室でも使わせてもらえれば何かと助かるのですが・・・。会場費の分をパーティーに回せますからね。藤宮先輩、どうにかなりますか?」

 城沢部長の問いに、藤宮先輩は事も無げに引き受けた。

「おう、それはオレが校長に聞いといてやるって」

 こうして、今回のパーティーの役割分担が決められていった。
 城沢部長によって、次々にホワイトボードに計画が書き込まれていき、雨宮が立ったままそれをノートにメモしていく。
 藤宮先輩は、たまにマジックで手に何かをメモしていた。

「それじゃ、部室使用許可の方はお願いしましたよ、先輩」
「一番の懸案はそれだもんな。はっはっはっ、タイタニックにでも乗ったつもりで安心しなさーい」

 城沢部長が複雑な表情で苦笑を浮かべたが、僕にはその意味がよくわからなかった。

「あ、オレも観ましたよ『タイタニック』。あれほどの豪華客船になると打ち上げ花火まで積んでるんですね〜。まさか沈没するときに打ち上げるとは思いませんでしたよ」
「アホ。ありゃ、救難信号弾だ」

 雨宮と藤宮先輩が謎の会話を繰り広げたので、余計に意味が分からなくなった。

「それじゃ、雨宮君は武藤君達と買い出し班ってことで。あ、中川さん達にも伝えておいてね」
「うぃッス。情報の伝達も計画通りにいきます。副部長にはくれぐれもナイショってことで」

 城沢部長の指示を受けて、雨宮はトイレから出ていった。

 ん? それじゃ僕は何をすればいいんだろう。
 買い出しとかの裏方作業は、たいてい演劇部では普段から、僕と藤倉さんがやっている。
 今回も買い出し班に指示を出して、大量の荷物を運んで、って役になると思っていたのに。

「あ、あの・・・」

 僕が口を開こうとすると、藤宮先輩と城沢部長は、顔を見合わせてニヤリと笑い、2人揃って僕の顔を見つめた。

「中瀬、お前には特別任務を与えよう!」
「これが一番大変だと思うけど、君にはうまく藤倉君を誘いだして欲しいんだ。もちろん、パーティーのことは伏せたままだよ」

 2人とも腕組みをして、さも、困難な任務なのだよ、とでも言いたげだ。
 実際、その通りだと思うが・・・。

「ぼ、僕がですか!? クラスも違うし、部活以外で話をしたこともないんですよ」

 驚愕している僕に、藤宮先輩が追い打ちをかけた。

「良かったな、部活以外で話すチャンスだ。ウチの部は可愛い娘ぞろいで有名だ。もちろん、その中には藤倉も入るだろう。うんうん、実にラッキーな奴だよ、お前は。名誉ある任務を任されるなんてな」
「え、でも、あの・・・」
「デートの誘いでも何でもいいから、うまく連れ出せ。パーティーだということがバレたら、部室掃除1か月。バラしたら部室掃除卒業までだ」
「そんな〜っ」

 なんだって、そんな大役が僕なんだ。
 もっと適任者がいるだろうにっ。
 藤倉さんだけじゃない、僕は他の女の子とだってあんまり話したことはないんだ。

「まあまあ、中瀬君。そんなに緊張することはないよ」

 城沢部長が肩を叩きながら、ニコニコしている。
 良かった、僕の気持ちを察してくれたんだ。
 持つべきものはスルドイ先輩だなぁ。
 “昼行灯”だなんてとんでもない異名だよ。
 きっと、一緒に行ってくれるに違いな・・・。

「部室の掃除ならたまには手伝うからさ」

 ──────黙ってろ、この昼行灯!

 気が付くと、僕は今回のストーリーの主役にさせられていたような気がする。
 しかも、この時点では、ヒロインに肝心なことを伝える術は何も持っていなかった。
 僕は深い溜息と共に、「緊急作戦会議室」を出た。
 「名誉ある任務」をどのようにこなすかを考えながら。


(5)に続く

2011/01/30 初版

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