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トキめいてるじゃん! 〜冬の特別編〜 (7)
山崎かおり

 クリスマス・イヴということもあって、武蔵ヶ丘商店街では、各店ともクリスマス、そして年末に向けて大いに盛り上がっていた。
 そんな、アーケード商店街の中を、ケーキを積んだ自転車を操りながら走り抜けていく。

「初めの配達は、と。業務用ケーキ10セットを『喫茶ボンバイエ』でいいんだな」

 しっかりと地図で場所を確認しながら、『BOMBER YEAH』の看板を見上げた。
 その時、

「あれ、中瀬じゃねーか」

 と後ろからダミ声をかけられた。
 身長こそ、それほど高くはないが、がっしりとした体格、キレイに剃り上げられたスキンヘッド、そして、口ひげと「別の意味」で似合いすぎているサングラス。
 どこからどう見ても、堅気の人間には見えないこの人こそ、武蔵ヶ丘中学校で一番おっかないと言われている体育教師の渕谷先生であった。

「おめー、バイトか? うちの学校はバイト禁止だって知らねーワケじゃあるめーな」

 ──────面倒な時に・・・。

 思わず舌打ちする。
 やっかいな時にやっかいな相手につかまってしまった。
 あだ名はブッチャーである。
 怒ったときの血管の浮き出し方から、金子信雄と呼ぶ、マニアックな上級生もいるが、こうして仁王立ちしている姿はやはりブッチャーだ。
 ちなみに柔道部の顧問をしている。
 海坊主のような頭が、冬の日差しを受けて、てかてかと光を放っている。

「ほっほぉ〜、バイトかあ。泣かせるなぁ、おい。ワシらも不景気でなあ、冬のボーナスが少なかったんだよなぁ」
「せ、先生・・・」

 くっそ〜、金属バットでも持ってくれば良かった。
 いくらブッチャーでも、こめかみのあたりにフルスイングすれば、気絶くらいするだろうに。
 などと物騒なことを考えていると、店の中から大きな声と共に、身体も大きい大男がのっそりとドアを開けて出てきた。

「何やってんだ、ブッチャー」

 その男は、アフロヘアーにサングラス、そして、冬だというのに胸の大きく開いたメキシカン・ブラウスを着ていた。
 その胸元からは、タワシのような胸毛を覗かせていた。
 立っている場所だけは、南米に見える。

「おお、カルロス。朝から、不味いコーヒーを飲みに来てやったぜ!」
「おいおい、今日はクリスマス・イヴだってのに、一人で来るとは寂しい奴だな。それとな、お前の味音痴をウチのコーヒーのせいにするんじゃない」

 そんな、大男2人のやりとりに唖然としていると、アフロの大男に肩をがっしりと掴まれた。

「ほお、なかなかいい筋肉をしているな。それより、どうした。藤倉さんとこの若い者とは違うようだが・・・。ブッチャー、お前んとこの教え子か?」
「そうなのよん。それで、ちょいと先生として、指導ってやつをな」

 渕谷先生の不気味な物言いに、アフロがニヤリと笑う。

「オレには、カツアゲ未遂にしか聞こえなかったぞ。少年、何か理由がありそうだな。まあ、立ち話もなんだから、中に入りなさい」

 そう言って、アフロは僕と渕谷先生のために喫茶店のドアを開いてくれた。

「おっと、紹介が遅れたが、オレの名はカルロス・サンターナ。“ブラジルの熱き風”とでも覚えておいてくれ」

 そう言いながらも、ケーキの箱を数えて、伝票にサインした名前は「中本」だった。
 どうやら、この喫茶店のマスターらしい。
 彼がコーヒーを出してくれたので、僕はカウンターに腰掛けた。

 喫茶ボンバイエは、こじんまりとしてシャレた感じの店だ。
 ウッド調に統一されていて、BGMはラテン・ミュージックっぽい。
 壁には所狭しと貼られているサイン色紙。
 そして、なぜかカウンターの前にはおでんナベが備え付けてある。
 そこだけ見ると、まるで居酒屋のようだが、全体的には落ち着いた雰囲気のある店だった。

「・・・なるほどなぁ。藤倉さんとこのお嬢ちゃんが美和子ちゃんだったのか」

 渕谷先生がしみじみと言いながら、がんもどきをつまみ、コーヒーをすすった。

「テメーんとこの生徒だろっ! まったくブッチャーときた日にゃ・・・」

 アフロの大男でカルロスこと“ブラジルの熱き風”な中本さんが、「困ったモンだね」という表情で、僕にもコーヒーを出してくれる。

「中瀬君って言ったな。お前はなかなか男気のある奴だ。心にじーんと来たよ。まったく藤倉の大将も人が悪いぜ。こんな大事なことを言ってくれねーんだから・・・。中瀬君、このカルロスも一枚かませてもらうぜ」

 頼もしい笑顔を見せる中本さんに、僕はほっとしながら頷いた。

「ええ、もちろんです。なかも・・・いや、ミスター・カルロス」
「セニョール・カルロスだ。わっはっはっ、アミーゴ。配達を続けたまえ。ブッチャー、いつまでコーヒー飲んでんだ。ムサ中まで案内しやがれっ」

 こうして、『ボンバイエ』のマスターである中本さんと、渕谷先生も、藤倉さんのバースデー・パ−ティーに参加してくれることになった。
 しかし、ここからこの話が大きな流れになっていくなんて、僕には想像も出来なかった。


(8)に続く

2011/02/22 初版

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