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トキめいてるじゃん! 〜冬の特別編〜 (9)
山崎かおり

 藤倉美和子は、自宅で浮かない顔をしながら、テレビから流れ出るクリスマス・ソングを聞いていた。

 中瀬真人は、商店街中の住人に声をかけられながら、ケーキの配達をしていた。

 その頃、今回のパーティー会場となる武蔵ヶ丘中学校演劇部の部室では、『藤倉副部長お誕生日おめでとうパーティー』の準備が、演劇部員達の手によって、着々と進められていた。
 部室の使用許可は、藤宮鷹実が、幻の名酒『佐渡の純米大吟醸』を片手に持って、徳川校長に頼みに行き、校長自身の参加を認めるということで、あっさりと許可をもらってきた。

「何だと!? 校内でパーティーをしたいだって? …気持ちは分かるが、教頭先生にバレたら、後がうるさいぞ、藤宮」(校長)
「いえいえ、そこはそれ。校長のご威光とお力でですなぁ」(鷹実)
「う〜む。しかし、何があっても飲酒は認められんぞ。いくら、わしだってな…」(校長)
「それは誤解なきよう、ご安心下さい。だいたい、こんな良い酒、生徒になぞ勧めるもんですか。ただ、我々だけだとハメを外す恐れもありますが、校長先生がいらっしゃれば、間違いも起きないだろう。そう思いまして…」(鷹実)
「まあ、そうかもしれんが(苦笑)」(校長)
「ここにお持ちしたのはほんのサンプルでございます。武蔵ヶ丘商店街は『清水酒店』から入手せしめた幻の密造…おっとドブのロクでございます」(鷹実)
「くっくっくっ、いい色じゃ…。こりゃ、藤宮。人を乗せるな。まあ、せっかくだからもらってはおくが」(校長)
「私も前生徒会長として、地域の皆さんと、より結びついた部活動を目指していきたいんですよ。新入部員の中瀬が、どうやったのか、武蔵ヶ丘商店街の方々を大いに味方につけたようですので」(鷹実)
「なるほどな。しかし…」(校長)
「そうそう、校長先生。私の情報網からの報告を一つお耳に…」(鷹実)
「なんだね?」(校長)
「教頭先生は、本日は教育委員会の集まりがあるそうです。つまり、学校には戻らず、そのままご自宅に直帰されるそうです」(鷹実)
「…わしも参加するとしようか」(校長)

 と、まあ、こんなやりとりがあったとか、なかったとか。

 兎にも角にも、許可が下りた以上は、と準備は急ピッチで進められていったのである。
 買い出しは、演劇部の一年生男子である、雨宮と武藤が中心となって、シャンメリーやクラッカー、そしてパーティーグッズ、紙コップや紙皿などが揃えられていった。
 また、演劇部の女子は、この日だけは、いつも段取りを取る藤倉美和子ではなく、同じ一年生の四条忍を中心に、部屋のかざりつけを行っていた。

 部室の一角に即席のティー・ラウンジを作ってしまったカルロスことアフロの中本と、客として『喫茶ボンバイエ』にいたはずの渕谷も、ティーカップを並べて、ドリンクの準備に余念がない。
 もっとも、この2人は、どうひいき目に見ても、「その筋の人」にしか見えず、その独特の存在感は、何をしているのか、と物珍しさに寄ってからかおうとする生徒達を遠ざける役にも立っていた。
 やがて、魚八の若旦那、松本も「美和子ちゃんのためなら」とばかりに、おそろしく大きな船盛りを届けに来た。

「これはスゴイよ。船盛りっていうより特盛って感じでしょ。これだけ食べれば元気もりもり、刺身は船盛り、小泉さんの前は森ってかあ。ぶっへっへっへっ」

 などと、愚かな発言を披露してひんしゅくを買ったりもする。

 この後も続々と商店街の人々が到着した。
 雑貨屋の遠藤おばあちゃんからは、すでに発売中止となっていると思われた炭酸飲料、『サ○ケ』と『ウィ○ー』が、それぞれ箱入りで。
 肉屋のマッスルミートからは、出来立てのホクホクコロッケが、中瀬に渡された分とは別に、さらに100個届けられた。

 もはや、一大イベントになりつつある部室の状態を見て、演劇部員の一年生、遠藤雅子と中川愛は、放送委員であるという特権を活かして放送室に潜り込み、「ちょっとしたいたずら」をしたために、参加者はさらに増えることになる。

「あ〜あ、今日はクリスマス・イヴだってのに楽しいことなんかないわねえ」
「どうしたの雅子ちん? もっと寒くなってホワイト・クリスマスになるかもよ」
「何言ってんの、愛。北国じゃあるまいし、そんなことあるわけないでしょ。なったらなったで、翌朝には融けて、夜には再凍結。新学期には通学路の坂道に立派なラージヒルが完成するだけよ」
「ぷ〜。夢がないなぁ」
「夢は寝て見るもんよ」
「フンだ。藤倉さんのお誕生日パーティーで楽しむから、いいもん」
「ちょっと、何よ、ソレ。彼女、イヴが誕生日なの!?」
「そうだよ。演劇部の部室で準備してるよ。正午に始めるんだ。一緒にお祝いしてくれる人なら、誰でも参加できるんだよ」
「それはちょっと夢があるじゃな〜い」

 ま、茶番である。
 しかし、これはなかなかの功を奏した。
 放送を聞いたお料理研からは、副部長の水上麻理奈が、自ら作った唐揚げを。
 同じくお料理研の堀川夏美からは、一升もある特盛りチャーハンが差し入れられた。
 そして、彼女達はその日の部活動を中止し、今では、部屋の飾り付けを手伝っていた。
 特に手伝う場所のない者は、美術部部長の佐藤美雪と共に、藤倉に渡す寄せ書きとバースデー・カードを作っている。
 先の「茶番」に協力した放送委員会のメンバーは、遠藤を中心に、パーティーをより盛り上げるためのBGM選びや、司会進行の段取りについての打ち合わせを始めた。

 その他、文芸部からは、清水優子を中心とした一年生の女子メンバーが参加。
 体育館で練習していたところを、藤宮に「目が合った」と連れてこられたバドミントン部のメンバーや、武蔵川の河原をランニングしていたところを、ケーキの配達中だった中瀬に誘われた女子バレー部の2年生、早瀬緑など、いつの間にか会場作りを手伝い始めた者も多くいた。
 まったく関係ないところでは、今回の期末テストで赤点を取ったがために、補習授業に来ていた、有島、小池、比叡山といったイレギュラーな面々も混ざり込んでいる。

 初めは、この大騒ぎに苦情と警告を言いに来た風紀委員長の篠崎鈴音でさえ、なんだかんだと手伝っているあたり、今回の『藤倉副部長お誕生日おめでとうパーティー』は、その理由を聞いた時点で、誰もに「心底祝ってあげよう」と思わせる力があったのかもしれない。

 当然のことながら、ムサ中生徒以外の参加者も数多くいた。
 藤倉美和子の弟である満、妹の由美子。
 そして、その2人を連れてきた同じ小学生の永井美希と早瀬紅葉。
 彼女達は、それぞれが友人を連れてきているので、小学生もかなりの人数になっている。
 そんな、小学生達のことは、篠崎と共に苦情を言い渡しに来ていた久世佳香が面倒を見ていた。
 中川 愛の父親も、今回のパーティーに協力しており、仕事で来ることが出来ない代わりに、と大量のバラの花が、テレビショッピングで有名な『お花宅配便』によって届けられたいた。
 ここらへんの派手さは、さすがに現役TVプロデューサーといったところだろう。
 さらに代理で、局でアシスタント・ディレクターをしているという原田が手伝いに来ていて、現場慣れした彼の手で、部室の中での雑用が片づいていった。

 こうした活気溢れる部室の中に、ひときわ盛大な感性があがった。
 中瀬と藤倉の父親の手によって、ついに特製バースデー・ケーキが運び込まれたのだ。
 主役もおらず、開場もしていない部室の盛り上がりは、すでに最初のピークを迎えようとしていた。
 ついにすべての準備が整ったのだった。
 全員の手にクラッカーが手渡される。
 シャンメリーを開ける手筈も完了した。
 あとは・・・。

 あとは・・・?
 この時、演劇部部長の城沢が、その日初めて口を開いた。

「で、藤倉さんはどうしたのでしょうか」

 その場にいる参加者すべての視線が、一点に集中する。
 中瀬真人は、一言だけ発した。

「やっべ〜っ」

 参加者達からの声を背中に浴びながら、彼は猛然と部室を飛び出して行った。
 そんな中瀬を、一同はどういうわけか、暖かい眼差しで見送っていた。
 一同の考えを代表するように、藤宮鷹実がぽつりとつぶやいた。

「アイツらしいや・・・」


(10)に続く

2011/03/03 初版

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