職と、男としての威厳を失ったような気がしますが、どちらも最初から無かったに等しいのであまり考えない事にします。
さて、話を戻します。
電話のある玄関ホールは吹き抜けになっていて、豪華な作りだという事がよくわかります。
何の知識もない僕でさえ、相当な年代物だと推測できました。
あとで山田さんに聞いてみると、明治時代にさるお金持ちの娘さんが病気療養のために利用していたお屋敷なのだとか。
築100年を越えています。
どうりで趣があるはずです。
電話の時に外の様子を確認すると、雨はやんでいましたが気温がぐっと下がったからか、霧が立ち込めていました。
確かにこれでは山道は危ないです。
リビングに戻ると山田さんは食事の用意をしてくれているところでした。
ペンションを経営しているだけあって、料理はどれも美味しそうです。
「やはりキーとなるのは、幕臣の小栗上野介ですよねぇ」
「ほほう、塚原先生もやはりそう思いますか?」
「儒学者、林鶴梁と小栗が主導して埋蔵したという説はかなり有力だと思います」
その昔に見たテレビ番組でも、例のコピーライターがそんな話をしていた気がします。
夕飯を食べながら、むぎむぎと山田さんはすっかりその話で夢中になっています。
しかしむぎむぎ、さすがに歴史の講師だけあって戦国時代だけでなく幕末も詳しいようです。
ってか、たいていの事に僕よりも詳しいので、生きているウィキペディアみたいなもんです。
僕が彼女よりも詳しいのはやよたんの事くらいでしょうか。
あ、春閣下と千早たん、ゆきぽに亜美真美にまこちんに律っちゃんも…いや、もうやめておきます。
妄想が加速しそうなので。
それにしても、僕はすっかり暇になっております。
「あの、先にお風呂いただいても…」
「どうぞ」
むぎむぎに先に入ってもらう予定だったのはナイショです。
その間に、おぱんつ様にご挨拶でも、と思っていた目論見はダメになりましたが、これはこれで良しとしましょう。
僕は心が広いのです。
「お風呂は広間を抜けた奥です。あと二階にお部屋を用意しました。自由にお使いいただいて構わないですが…地下室だけは立ち入らないで下さい」
「地下室?」
「古い未分類の資料があるんですよ」
行くなと言われると気になります。
鶴の恩返し然りですよ。
が、ここは言われた通りにしておきます。
キッチンの横を通った時、普通サイズの冷蔵庫とは別に、大型の冷凍庫があったのが気になりました。
こりゃ本格的な料理をする方なのかもしれません。
夏場にはペンションをやっていると言っていたので、そこで披露するのかも?
(5)に続く
2013/03/12 初版
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