砂漠焼けした男が、山道端に寝転がって空を眺めていた。
大きな荷物に、軽装甲を装備した恰好は戦闘には頼りなく、旅人にしては重装備という中途半端な印象を受ける。
自分で考えていたよりも、ずいぶん長い旅だったようで足が棒のようだった。
だらしなく両足を投げ出して、ぼんやりと崖下に広がる絶景、そして、流れる雲を見ているうちに眠くなってきた。
遠くから狩りの音が聞こえてくる。
足音からしてパーティーは4人。
よく訓練された、無駄のない移動をしているようだった。
何かと賑やかなお供のアイルーは誰一人として連れていないようだ。
声が聞こえないから分かる。
3人以上で狩りをするなら、人間大のハンターだけでパーティーを組む方が安全だ。
かつては5人パーティーもあったというが、現在では4人までが不文律だ。
狩人は2匹くらいまでなら、お供アイルーを管理できるが、4人のハンターと8匹のアイルーでは、集団での移動速度が一気に低下し、休憩をするにも野営をするにも、必要以上に物資が消費され、大規模になってしまう。
何より、接近戦では同士討ちの危険性が出てくる。
射手は射界に仲間が入る確率の方が高くなり、“動く存在”が多くなって、標的の判別に数瞬の時間が余計にかかるのだ。
聞こえてくる音で、彼らの装備が分かった。
太刀、片手剣、ランス、ライトボウガンの構成のようだ。
細く繊細でいながら空や肉を切り裂く力強い音がする太刀。
連続で斬りつけては、大きく振り回す音も聞こえてくる。
獲物が逃げてもその位置が分かるようにマーキングするペイントボールや、爆薬の破裂音、広域散布型の回復剤を投げる音もする。
訓練されたハンターなら誰でも使う事が出来るものばかりだが、使用間隔が通常よりも極端に短かった。
これは片手剣を装備している者の特徴だ。
そこそこの重量はあるものの、片手で扱える剣を抜刀したままで作業が出来る。
彼らの持つ盾は、本気で防御する気がなければ革のベルトで腕に固定し、手は自由に動かせるのだ。
一方でランサーが持つ大型の盾は、腕に固定しつつ、グリップを常に握っていなければ重くて取り回しも移動も出来なかった。
ガッシャガッシャと板金鎧が突進していく、戦時のような音は、そのランス使いのものだった。
最後に聞き分けられたのは発砲音だ。
綺麗に研磨された弾丸を発射する音はボウガン特有である。
弦の力のみでクォレルと呼ばれるクロスボウ・ボルトを飛ばす時代は遙か昔の事。
今では火薬草やはじけイワシ、ハレツアロワナなどの含有成分から、火薬と炸薬を生成し、カラの実やカラ骨に入れてから弾頭で密閉できる。
支援射撃の出来る大型のボウガンなどは、鍛冶屋が加工した金属製のカートリッジに入れる事もあった。
羽が付いていない弾頭は飛距離が落ちたものの、ターゲット・ストッピング・パワーは上がった。
聞こえてくる速射性能と排夾音の軽さから、ライトボウガンである事が分かる。
「前衛は攻撃を続けろ。突進してきたらランサーが引き受けてくれ!」
「了解!」
「正面から受けても止められるぜ」
「あと3発撃ったら装填っ! 前部弾倉がなくなったから背中から取るの。時間かかるよ」
渡ってきた吊り橋の反対側、かなり近くまで来ているのか、声まではっきりと聞こえてきた。
射手は己を弾薬箱としなければ、継続した射撃が出来ない。
前部弾倉というのは、肩や胸、腰などに下げた弾倉入れで、身体の前に下げているものを言っているんだろう。
軍ではなく、民間戦闘組織。
村や都市部を守る護衛隊や、ハンターギルドで使っている用語にあったかもしれないと男は思った。
効率よく攻撃を加え続ける太刀持ち。
標的の攻撃を受け止め、パーティーへの被害を軽減しながら、距離が開いたら突進を繰り返す突撃槍使い。
前衛と後方支援へ的確に指示しながら、自らは中間的な位置でパーティー支援と直接攻撃を与える片手剣使い。
おそらくはパーティー・リーダーだろう。
回復剤を投げているところをみると、衛生兵も兼ねているのかもしれない。
そして、女性と思われる軽ボウガン射手。
男は自分がいた組織に当てはめて考えた。
ダメージディーラーのソードマン、アタッカー兼ディフェンダーのランサー、バックアッパーのライフルマン。
率いているのはコンバット・メディックを兼ねているスカッド・リーダー。
短期行軍で、少人数の戦闘分隊としては理想的な構成だった。
・・・理論的には、だが。
モンスターハントは軍事作戦とは違う。
ユニットとしての能力はひと固まりとして発揮されるのが戦闘分隊構成である。
どんなに訓練されていても、生き物のように調和の取れた行動が出来てこそ、真価が発揮される。
1部隊で一人として勘定されたのでは、モンスターに対して1対1となってしまうのだ。
個人それぞれの能力が高いなら問題ないが、一人でも充分に戦える状況で、4人集まったというパーティーでなければ4対1にはならないのだ。
統率力が高いパーティーのように思えたが、個々の戦闘能力が足りないような気がした。
あくまでも音しか判断材料がないのだが、どたばたしているように聞こえるのだ。
(2)に続く
2012/06/06 初版
|