ドガッ!!
大きく弧を描いて、男が吹き飛ばされ、地面に転がった。
彼が愛用している片手剣、ボーンクックリはかなり前に手放してしまっている。
「う・・・うう・・・」
呻く男に、ハンターライフルを手にした女射手が駆け寄る。
「大丈夫!?」
「エミリアか・・・2人は・・・どうなった」
「ネコタクがベースキャンプに連れて行ってくれたわ」
「つ、次に俺が・・・運ばれたら契約が・・・」
「そんな事はいいから! 大丈夫なの!?」
ハンターは通常、クライアントから契約金を前払いされて仕事を請け負う。
追加報酬がある事もあれば、後払いの時もあるが、正式な手順では全額前払いが基本だ。
しかし、これはハンターギルドや仕事の仲介人が一時的に預かっておくのが普通で、ハンターが実際に手に出来るのは仕事を完了したあとになる。
この奇妙なやりとりには理由があった。
誰かが意識昏倒に陥ったり、動けないほどの傷を負った場合、死亡する前に搬送専門のアイルーが最寄りのベースキャンプまで運んでくれる手はずを整えるのも常識だ。
特に一人で仕事を請け負った場合などは、生死に関わる。
台車と2匹のアイルーで構成される彼らはどんなに危険な状況でも、ハンターを救い出し、荷車に乗せてくれるが、その分、搬送料は法外な額となる。
危険手当に加え、ハンターの場所を突き止める手間、その場所まで荷車を最速で走らせる為のルート選定などを含めると、どんなに高額な報酬が設定されていようとも、たいていは3回も彼ら───ネコタクと呼ばれている───に出動要請すれば、契約金は底を着く。
狩りに大量の現金を持ち歩く事は出来ないので、その際の搬送料は一時的に契約金を預かったギルドや仲介人が支払うというシステムになっていた。
余談だが、もちろんマージンは差し引かれ、ギルドの運営に使われているのは周知されている。
「仕事は失敗・・・だ。に・・・げろ・・・」
男は気を失った。
エミリアと呼ばれた女射手がその身体を引きずって、大きな倒木の陰に男を隠した。
ユクモの木として知られる頑丈で有名な木だ。
とりあえずは安心だろう。
獲物はまだピンピンしており、鼻息を荒くしていた。
ランサーよりも勢いのある突進を繰り返す、疲れ知らずに見える。
イノシシに似た風貌。
長く、太い2本の牙が、口の端から反り上がっている。
ドスファンゴ。
手練れのハンターでも、油断すればひどい目に遭う。
猪突猛進を地で行く獲物だった。
今や彼女たちが獲物になりつつあったが。
(7)に続く
2013/04/23 初版
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