一方、ディックスも焦っていた。
剣を横殴りにして思い切りドスファンゴをひっぱたいたものの、アイルーの絶叫を聞いて、すぐに後悔した。
あのチビ助は自分の仕事をきちんとやってくれた。
仰向けの大イノシシが電磁パルスの放電に包まれているので確かだ。
しかし、パニックになっているのも事実で、足がすくんでいるのだろう。
悲鳴は遠ざからずにいる。
その反対側に行って、アイルーを落ち着かせようにも、右利きのディックスを正面に、左からドスファンゴ、大剣、自分の順に並ぶ事になる。
まったくロスなく獲物の横をすり抜けようと思えば、剣を放り出して、巨体の右側を通る事になるのだが、それでは射手の視界を遮る事になってしまうのだ。
誤射されるのはかまわない。
味方から撃たれる、斬りつけられるなどは乱戦ではごく当たり前の事だったし、戦死者が出るような戦闘では数%が同士討ちという実態は、古今東西で変わらなかった。
そんなものにビクついていては戦闘稼業などできない。
数瞬でも遮りたくないという理由は別にあった。
アイルーが連合通貨を持っているとは思えないので、シビレ罠は購入したものではなく、空のケースを拾ってきて、自作した可能性が高いのだ。
構造も原理も独学で学んだ猫人族のセットアップした電撃罠が、どれくらいの間、稼働しているのかが分からなかった。
(まだなの!?)
エミリアが焦れていると、アイルーの小さな身体がひょいと浮かび上がった。
男がドスファンゴの後ろから飛び出て、抱え上げたのだ。
小脇に抱えたまま大きくジャンプし、転がって着地する。
「クリアっ!」
ドドン!!
ディックスが“射撃に問題ない”という合図を叫ぶと同時に、エミリアが発砲した。
射撃音を聞き慣れている者にさえ、1度の発砲音に聞こえるような速射。
麻酔弾が確実に2回発射され、ドスファンゴは深い眠りに落ちていった。
驚くべきは装弾不良を起こさないハンターライフルの精度。
そして、初発のキックバックが発生しないうちに、次弾を撃った彼女の射撃技術だった。
(10)に続く
2013/06/18 初版
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