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モンスターハンター3RD・SS 〜笑顔の靴下〜 (10)
大和武尊

 ポンッ!

 抜けるような青空に、花火のような破裂と緑の煙が広がった。
 一般に売られているハンター装備には、右腰に中折れ式のピストルが付いている。
 これは狩りでは使わない、というよりも使ったところで何の効果もない小型拳銃で、銃身に螺旋溝が掘られていない信号弾発射用のものだ。

 頑丈なロープで、ドスファンゴの口と四肢を縛ったディックスが、上空に向けて放ったあと、腰の後ろへとピストルを収めた。
 真横にした銃を逆さまにし、グリップが上を向く形でしまいこむバックサイドホルスターは、普通のハンター装備にはない。
 本来、ホルスターを下げるはずの右腰には、太い金具がいくつか突き出ており、ポーチや鞘を留められるようになっていた。
 状況に合わせて、装備位置を自由に変えられる仕様の弾帯ベルトなど、そうは目にしないものだ。

(特殊部隊?)

 一連の戦闘行動から、パーティー・リーダーへの応急処置、獲物の固定まで、無駄のない動きを見て、エミリアは何となく男がハンター出身ではないだろうと感じた。
 少なくとも最初からハンター家業に従事していたとじゃ思えない装備だ。

 信号弾はギルドへの連絡で、獲物を捕獲した場合、その移送をするための馬車や、ネコタク、ガーグァの荷車などを手配してもらえる。
 安全が確保されている事、場所が明確である事など、先の人事不省に陥った際に要請するネコタクとは緊急性も料金も格段に低いものだ。
 しかも、くたびれきったハンターも同乗できるというおまけ付きだった。

 ディックスは1/3しか残っていない報酬の分け前を要求する気はないと言い張り、女射手と猫人族を休ませておいて、後始末をこなしていった。

「ありがとう、助かったわ」

 エミリアはジンジャアトの木陰で、アイルーと並んで腰を降ろしたまま言った。
 逆刃のボーン・クックリや、戦闘中に使われないまま落としたと思われる回復剤、亀裂の入っていないカートリッジなどを拾い集めながら、ディックスが振り返る。

「良い腕だ」
「ありがとう」

 セミロングの金髪を、カーキ色をしたバンダナで押さえていたエミリアが振りほどきながら微笑み返した。
 所々に赤い紐を織り込んであるのは、魔除けの意味があるのだという。
 この地方独特の迷信らしい。

「ニャ♪」
「どうしたの?」
「スッゴク美人ニャ・・・」
「正直なネコちゃんね」

 ディックスも眩しそうに彼女を見ていた。
 髪留めやバンダナで視界確保優先の姿になるのはもちろん、戦闘中には顔などロクに見れない。
 初めて彼女の素顔を見て、少なからず驚いているようだった。

 拾い集めたパーティーの装備を布袋に入れると、ディックスは彼女の足下に置いた。

「これは村に戻ったら、パーティーのメンバーに渡してやるといい。カートリッジはたぶん君のだ」
「ありがとう、エミリアよ」

 ディックスは耳がないような顔をして、草むらに首を突っ込んだ。
 エミリアは拍子抜けした。
 雑木林の中で四つんばいになって、何やらごそごそやっている。
 たいていのハンターは自分の素顔を見るや、仲良くなろうと必死になるタイプが多かった。
 はっきり言えば、面倒くさいのだが、この男は自己紹介さえしない。
 アイルーの事も名前で呼ばない。
 自分に対しては、通りすがりでこれ以上、関わる気がないという意思表示なのだろうが、お供アイルーの名前も呼ばないのはやり過ぎな気がしたのだ。

 しばらくして、あちこち土だらけにしたディックスが、草むらから、ぬっと首を出した。

「アイルー」
「はいニャ」
「よくやったな」
「えへへ、嬉しいニャ♪」
「これはお礼だ。雷光虫を何匹か捕まえたので、さっきの罠の中に入れとくといい」
「ありがとニャ♪」

 使い終わったシビレ罠は、空き缶のようなもので、モンスターに踏み潰されていなければ何度も使える。
 戦闘が終わると、アイルーはすぐに回収して大事そうに持っていた。
 まるで宝物のようだ。

 側面の蓋を開き、内部機構をセットしたりチェックしたりするスペースに高電圧ホタルとも呼べる小さな昆虫を入れていく。
 もっとも、なかなか素直に入ってくれないので、逃げられそうになったり、罠を落としそうになったりと忙しい。

「ニャア! 外に出そうニャ」
「うお! 落とすな落とすな」

 およそ協力して大イノシシを捕獲したとは思えない不器用さで、デカいのと小さいのが、四苦八苦しながら缶に虫を入れていた。

「ねえ、なんで生け捕りにしたの? あなたなら倒せそうなのに」

 エミリアは1人と1匹のやり取りを微笑ましく思いながらも質問してみる。
 ディックスは1度も斬りつけなかった。
 捕獲にこだわっているようにも見えたのだ。

「口の周りも牙も血だらけにして、人を食ってるファンゴ種を見たことがない」
「そ、そうね」
「ないニャ」
「なら殺す事ないだろ。ケツをド突かれるくらいなもんだ」
「・・・」

 捕獲したところで、ギルドに渡せば、研究用検体にされる事が多い。
 クライアントが相応の恨みを持っていれば、特に。
 観察用に生かされる事など、まず、ないと言って良かった。
 それが証拠に、ハンターが自分で剥ぎ取るよりも多くの皮や角を報酬に加えてもらえる事が多々ある。
 ディックスだって、それくらいの事は知っているはずだった。

 虫を入れてもらった罠缶を抱えてご機嫌のアイルーに、一瞬だけ男が目をやったのを、エミリアは見逃さなかった。

(まさか今時、女と子猫に血を見せたくなかったなんて言わないわよね・・・)

「それに生かしておけば、また増える。獲物が増えれば、仕事も増える。ハンター稼業は安泰ってわけだ」
「なにそれ・・・」
「敵を殲滅しちまったら、食いぶちがなくなるだろ? 常に商売の種は残しておくのさ」

 ディックスは凄みを効かせるように眉根を寄せ、片頬を歪めた。
 ふっふっふっ、と含み笑いまで加えて、大イノシシの近くまで歩き、タバコに火を点けた。

「ぷはー! 報酬さえあれば古龍だってシメてみせるぜえ」

 雷光虫を缶に入れられない男の言葉とは思えない。

 ちょんちょん

 遠くであらぬ方を見ながら、ぶつぶつ言ってるディックスをほっといて、アイルーがエミリアの足をつっついた。

「?」
「あんな事言ってるけど、ダンニャサンは優しいニャ」
「ま、まあ、そんな気はするけど・・・」
「本当ニャ、本当ニャ! ボクにメダマヤキをくれたニャ」

 一生懸命に身振り手振りを加えて説明するアイルー。
 エミリアは手の平に収まるほど小さい頭をくしゃくしゃに撫でて言った。

「分かってるから大丈夫」
「本当ニャ?」
「オレはワルなんだぜえ! ってアピールを、あそこまで失敗してる人って珍しいでしょ」
「ニャ・・・?」

 アイルーが振り返ると、ディックスはドスファンゴの毛を手櫛でといているところだった。
 うっかり、タバコの灰をイノシシの腹に落としたのだ。
 「ヤケドしてないよな・・・」とかぶつぶつ言っている。

「失敗ニャ、失敗ニャ♪」

 アイルーは缶を抱えたまま、エミリアと笑い合った。

(だいたい、報酬なしで人の狩りを手伝うなんて・・・命がけの戦闘をするなんて、普通はできないもの)


(11)に続く

2013/07/02 初版

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