「ふたりぼっちなんて言葉はないぞ」
ディックスはソックスの小さな手を握って、集会浴場への階段を登っていた。
アイルーと一緒にユクモラムネで乾杯しようと思ったのだ。
そこへ、不意に後ろから声を掛けられた。
「3人ぼっちはどう?」
「ニャ!?」
「(さらに激しく間違ってるぞ・・・)」
エミリアだった。
彼女は狩りの装備を外しておらず、肩からハンターライフルを担いでいた。
「ボク、ソックスっていうのニャ♪」
「あら可愛い♪ お供アイルーになれたのね。おめでとう」
「ありがとうニャ♪」
ぺこりとお辞儀をするソックスを抱き上げて、エミリアはディックスに向き直った。
「こんな時間にどうしたんだ?」
「昼間に会った渓流で、雷狼竜が目撃されたの」
「ジンオウガが・・・」
「ニャっ!」
ドスファンゴは一応、大型モンスターの部類に入る難敵の1種族だが、ジンオウガは雷をまとう竜族と言われている強敵中の強敵として、ハンター達に知られていた。
大イノシシが異常に興奮していたのは、自らの危機を感じ取っていたのかも知れない。
「一人は肋骨、一人は大腿骨を骨折。リーダーは戦意喪失して、この件から手を引くって」
「相手が雷狼竜じゃな・・・」
「ギルドからは連続出撃になるけど、狩ったら特別報酬を出すって言われてるわ」
「・・・」
ディックスは考え込んだ。
彼女は行くつもりなのだ。
はっきり言って、無謀だろう。
生きて還れたところで、夜明けまでにジンオウガを仕留めるほどの突貫力を、彼女の火器が有しているとも思えなかった。
夜が明ければ、雷狼竜はその常識はずれな踏破能力で、遠くまで移動するかもしれない。
そうなれば再発見までに時間がかかり、次に目撃される時には、同時に被害者が出ている可能性もある。
だから、ハンターギルドは追加オーダーを出したのだ。
「ダンニャサン・・・」
エミリアの腕の中から、ソックスが心配そうな声を出した。
「ジンオウヘルムとジンオウメイル・・・作るか」
「ニャ?」
「きっと似合うぞ」
「はいニャ♪」
ソックスがニッコリしたのを見て、ディックスは女射手に言い放つ。
「俺はアイルー用装備の素材が手に入ればそれでいい。特別報酬は君が受け取れ。これは君たちのパーティーが受けた仕事なんだから」
「そんな・・・」
「報酬はきちんと4等分して、彼らの治療代に充てるんだ」
「私は手伝ってもらうつもりじゃなくて、報酬を半分・・・」
ディックスが手を振って、言葉を遮った。
「これ以外の条件では3人ぼっちの話はナシだ」
「ボク、3人ぼっちがいいニャ」
「・・・ありがとう」
「礼を言うのはまだ早いぞ! エミリアも俺の家に来てくれ。装備とベースキャンプの備品を整える。それから作戦会議だ」
「了解!」
「はいニャ!」
初出撃するパーティーとは思えない。
そんなリラックスした表情の2人と1匹は、広場の一角にある家の中へと消えた。
・・・
ユクモ村には、ハンターギルドが大勢の狩人を派遣し、危険生物の“間引き”を奨励している。
それは人間が、自然界へと居住区域を広げた為に生まれた傲慢な行為と見なされる事も多々あった。
だが、自然界の危険生物たちですら、その生命を脅かされる強大な怪物が確かに存在している。
ハンターギルドでは、そうした存在にさえ立ち向かえる者達も派遣していた。
種族を超え、狩人の能力を遙かに凌駕した彼らを、人はモンスターハンターと呼んでいる。
「モンスターハンター3RD・SS 〜笑顔の靴下〜」おはり
2013/09/10 初版
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