暗い道を走り、点在する煌びやかな明かりの元で休憩する。
そんな夜のドライブがとにかく好きな俺は、昼間、しがないサラリーマンをしている。
学生時代はアイデアマン的な存在だった事もあり、企業に入ったら企画やマーケティングの仕事をしたかった。
簿記の資格はないので経理には入れない。
事務職も良いと思っていた。
要するに営業職を避けたかったのだ。
人見知りなどはしないが、知らない人と毎日のように会うのは疲れる。
そういうのが楽しいという人もいるだろうが、俺には無理だと思っていたのだ。
会社は尾上英利(おがみ・ひでとし)という俺の名前を見ただけで配属を決めたという。
英利は音読みでエイリだ。
「これはいい! 名前からして営利と同じじゃないか♪ 営業利益アップ間違いなし!!」
ぼんくらの国からぼんくらを広めにきたような顔をした営業部長は、ぼんくらが思いつきそうな理由で俺を営業部に入れた。
最悪だった。
外回りは残業も多い。
何せ、他人が退社するまでに企業を回るのだ。
オフィスに戻ってから、プレゼンの企画に準備、営業結果のまとめ、訪問先企業の情報整理などを行う。
内勤の者や上役、もちろんぼんくらも帰ったあとで、細かい事まで入れれば、読まれているんだかいないんだか分からない業務日報を書いたり、名刺の整理をしたり…。
いつまでも腐っていたところで転属されるわけでもなく、部内で重宝がられる事もないだろうと思い直し、俺は企画屋としての営業を始めてみた。
自社製品の売り込みには限界がある。
そこで他社の、特に訪問先の相手が困っている事、成功させたい事を手伝ったり、アイデアを出す事で信用を得るようにしたのだ。
これは成功だったが、誤算もあった。
純粋に仕事が増え、終電で帰る事が多くなってしまった。
自分の好きな部分を見つけた仕事なので、業務内容への不満は減ったが、働くという行為そのものはプライベートを完全に封じられる。
自分の時間がないというのは、思いのほかストレスが溜まり、金曜日などは終電で帰るなり、意味もなく4時頃まで起きていたりした。
本当に無駄だった。
けっきょく土曜日は昼過ぎまで寝ており、結果的に自分の時間は少なくなるのだ。
それでも自由であり、自分の時間である週末の夜を満喫していたとは思う。
ある冬の事だ。
夜明けが近づき、ぼんやりと週末の深夜番組を観ていた俺は、ふと飲み物が欲しくなった。
学生時代から一人暮らしをしているアパートの近くに自販機はあったが、どういうわけか変わったものを飲みたかった。
ラインナップに飽きていたのかもしれない。
コンビニまでは寒い中をけっこう歩かなくてはいけない。
車で行くような距離でもないし、自転車は乗らなくなってずいぶん経つ。
スーツが傷むので社会人になってからはパンクしっぱなしで放置されていた。
何より自転車は歩くよりも寒い。
どうせなら車で行くくらい遠くのスーパーに行くか。
そう思い、いざ車内に入ってエンジンをかけたところですぐにヒーターが効くわけもなく、ガタガタ震えながら、とりあえず走り出した。
目的地を定めなかったのが災いして、大通りに出た後、意外なほど多いコンビニやラーメン屋、24時間の服屋に寿司屋に牛丼屋に…と真っ暗な寒空の下で光り輝く街並みに圧倒されたのだった。
俺はそのまま高速に乗り、一番近くのパーキング・エリアで停まった。
寒い中、震えながら紙コップのコーンポタージュを飲み、PAに出入りする様々な車を眺めている時だったろうか。
たぶん、この時から夜のドライブが好きになったのだ。
(4)に続く
2018/01/23 初版
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