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PAでバナナ・オレを (5)
大和武尊

 大盛りのペペロンチーノを食べ、ドリンクバーのエスプレッソを啜る頃、俺はダッシュボードから取り外してきたポータブルナビと古いMacbook Airをテーブルに出した。
 車にナビは付いているが、これはサテライトリンクを利用するだけに近い。
 衛星経由でどの道が混んでいるかなどを教えてもらうには車載ナビが便利だが、2年に1度しか更新されず、それも交換はメーカー任せというのんびりしたシステムに案内を任せるのは無謀だろう。
 俺は前の車に付けていたポータブルナビで頻繁に最新の地図へと更新していた。
 そうそう、つい最近、俺は車をローハイトミニバンに乗り換えたのだ。
 いわゆるワンボックスではなく、ステーションワゴンのようなフォルムと車高でありながら7人乗りというファミリーカーだ。
 ハッチバックも含めればドアは5枚もある。
 前はGTベースの2ドアクーペに乗っていた為、この車両変更にはそこそこの決心が必要だった。

 地べたを這いずるような車高に、シーケンシャルシフト、ただでも限られた視界なのにリアには大型スポイラー等々、“走りが好き”と誰に言っても納得される車だったが、荷室の積載量が絶望的だったのだ。
 実はキャンプが好きなので、かさばるアウトドア用品はリアシートを使っても少し足りないくらいだった。
 友達も誘おうものなら、ナビシートの足下か本人に荷物を抱えて乗ってもらう事になってしまう。
 事実、何度かそうした事があり、必要最低限の携行品だけで、鍋や大型テントは置いていくというライトなキャンプが続いていたのが不満だった。

 そこでミニバンである。
 ローハイトミニバンは「乗ろうと思えば最後尾にも2人乗れる」という申し訳程度の3列シートで、ほとんどの場合はフラットにして架台扱いされる。
 本気で7人乗ったら、全員、荷物を抱えてもらう事になるだろう。
 というわけで、俺はキャンプ用品満載でも2列目のリアシートが空いているという居住性にシフトした。
 ステア───ハンドルの事をステアリングというのは車好きの悪癖だ───カバーにペダルはもちろん、フォグランプに合うエアロパーツ、偏平率の高いタイヤとアルミホイール、ぶっといスポーツマフラーとそれなりにドレスアップはしたが、遠目から見ればどこまでもファミリーカーである。
 オクタン化の高いガソリンをブチまけて走っていたような先代とは違って燃費もいい。
 イグニッションを捻るなりゴロゴロ言わせているだけで道行く人が振り返った真っ赤なボディではなく、汚れもフォルムも目立たない地味なシルバーボディである。

 ほとんどの人はこのあたりの話をされるとたいてい聞き流すようだ。
 俺もそのあたりは分かっているので、車好きにしか話さないようにしている。
 でも、あえて付け加えたい。
 ちょっとだけだから聞いてほしい。
 マフラーはタイコだけ変えたのではなく、ちゃんと前から引っ張ってきたし、足回りも固めてある。
 サスもショックも少しだけお金をかけた。
 「そのように作られてはいない」わけだから、制動に不安が残るのでブレーキキャリパーもパッドも換装してある。
 はい、終わり。
 言うだけ言ったので気が済んだ。

 話を戻そう。
 俺がMBAを使っているのにはわけがある。
 のんびり気ままな夜のドライブを楽しんでいても、ふとした瞬間に仕事のアイデアを思いつく事があるのだ。
 スマホでメモを取るのは時間がかかる。
 ガラケーは気の利く配偶者みたいに洗練された予測変換をしてくれたが、スマホにしてからは内蔵辞書が“使えない新入社員”並みにアホになったからだ。
 ヴォイスレコーダーに吹き込むというスタイルに変更した事もあるが、これはこれで録音された自分の声というものは不気味で仕方がない。
 ペンとメモ帳という古来よりスタンダードな方法が一番良いように思えるも、何せ夜のドライブなのでルームランプを点けないと字が書けない。
 ドライブレコーダーにオービスレーダー、外付けナビ、油温・水温のデジタル計など、シガーソケットをタコ足配線にしている車で長時間、車内のライトを点けているのは危険だ。
 バッテリーが12.6ボルトを下回った時点でエンジンがかからなくなってしまう。
 体感ではだいたい10分で下回る。

 そこでノートパソコンを持ち歩く用になったのだが、これは昼間の仕事にも使えて便利な反面、ハードディスクが振動に弱い。
 ネットサーフィンぐらいなら問題ないのかもしれないが、膝の上でアイデアをバシバシ打ってるだけで

<振動を検知しました。ハードディスクを待避させます>

 と非常事態を告げてくる。
 シッピングを繰り返すからか寿命も縮まるようで、1年で3台を潰した時にMBAに乗り換えたのだ。
 この機体はSSD搭載なのでハードディスクではなく、巨大なフラッシュメモリに記憶させるというシッピングなしの行為に近い。
 機械的に動かないというのは機器の寿命を長持ちさせてくれると信じている俺としては渡りに船だった。
 外観は薄いがレッツノートなどに比べればかなり重いし、処理能力はMacbook Proには遠く及ばない。
 アンドロイド・タブレットとipadはそこそこ役に立ったが、仕事では全く使えない。
 それでMBAになった。
 SSDはクラッシュしたらサルベージのしようがないので、こまめなバックアップは必須だが、まあまあ快適だ。
 スタバでずらっと並んでいるマカー共とは理由が違うのだと声を大にしたい。
 そもそも俺は喫煙者なのでスタバとは縁がないのだ。
 あそこは深夜営業の店舗、限られてるし…。


(6)に続く

2018/02/06 初版

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