『さくおか』をざっと見る限り、オカルト系に興味のある人達が雑談をする掲示板のような体裁だった。
スレッド・フロートタイプなので、某有名巨大掲示板に近い。
話題は大きく大別すると、デジタル時代になって、超常現象を撮影した写真の解析が可能になっている事など、はっきり言って最近、盛り上がりに欠けるという懸念が大半だ。
「昔に比べて更地・再開発などで各スポットが無くなってる」
「残っている有名どころは、話には挙がるが凸しても何もなかった」
このあたりも散見される。
凸というのは“突撃”の隠語で、実際にその場所へ行くことなのだそうだ。
近年、若者の車離れが進み、余計に“勇者”───凸する者を、その度胸から勇者と呼ぶらしい───も減っているのだという。
もっとも最近は、その凸してる連中のSNSや投稿を見たところで、「運転してる奴がどうみても酒をやってたり、危険ドラッグでラリパッパしてる」というマナー低下も嘆かれていた。
どうも盛り上がっていた頃の勇者が減って、悪く言えば他力本願の閲覧者たちが愚痴を言っているようなスレッドが多い。
それでも、真剣に検証しているスレッドはわずかながらあった。
「小坪トンネルや、ミステリースポットの帰り道に事故る幾つかの話は白い車に乗っていると起きるというが、白い車の比率を考えると高確率ではないか」
これは分かる。
最近、某役所が発表したハイビームに関するデータに驚かされたからだ。
何でも死亡事故を起こした車の90%以上がロービームで走っていたのだという。
道交法上、ロービームはすれ違い用前照灯という。
つまり、道交法を厳守するなら、夜間の走行はハイビームが基本なのだ。
今後、ハイビームによる走行を推奨または義務づけるレベルまで持っていこうという動きまであるらしい。
だが、実際には高速道路でもハイビームで走っていれば対向車線からパッシングされることは日常茶飯事だ。
歩行者の目を眩まし、一般道ならクラクションを鳴らされるどころか、トラブルになりかねない。
もっとはっきり言ってしまえば、死亡事故を一度も起こしたことがない車も90%以上がロービームで走っていたはずだ。
凶悪犯罪者の99%が24時間以内に食事と睡眠をとっているから、食べるの禁止、眠るの禁止と発布するのと変わらないのになぜ気付かないのだろう。
話は逸れたが、スレッドは同じことを示唆している。
白い車に乗っていると“呪われる・事故を起こす・憑依される”などのオカルト現象、超常現象が起きるのは、その車のカラーに問題があるのではなく、一般的に白い車が非常に多いからではないかと言っているのだ。
これは分かりやすかった。
「都市伝説の多くは、同じような目にあった人が複数いるのではなく、元ネタの話が派生して幾つもあるように感じるのではないか」
「元ネタ自体が古い場合、原理を知らなければ不可思議なものだったのではないか。例えば、ブロッケン現象、丸が三つあれば顔に見える等」
なるほど、と関心する内容は意外に多かった。
それにしても…。
そう、それにしてもだ。
匿名の掲示板なら何でも書ける。
自分を特定されたくないが、どうしても公表したいことがあるという場合には匿名掲示板は有効だが、同時に適当なことをいくらでも垂れ流せるという側面も否定はできない。
「ネットに乗ってるオカルト情報じゃ、信憑性はないだろうな…」
誰もいない店内で俺はつぶやいた。
「ほんとにそう思う?」
「うおっ!」
古い表現なら心臓が飛び出しかけたとはこの事か。
顔を上げると、帰ったと思っていたイカスミオッパ…いや、窓際でノートPCを操作していた女性が腕組みをして立っていた。
オカルトマニアか?
しかもバリバリの肯定派らしい。
信憑性がないとうっかりつぶやいたのに、どうしても声を掛けずにはいられなかった。
そういう感じだった。
(9)に続く
2018/02/27 初版
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