彼女は三ツ門葉月(みつかど・はづき)と名乗った。
本名じゃないとも。
「ここ、いい?」
そう断ってから、俺の返事を待たずに対面の席に座った。
たゆんたゆん、ぷるんぷるん。
もう少し、しっかりフィットする下着を着けてくれないだろうか。
気が散って仕方がない。
彼女はネットの噂話について、信憑性が低いのは確かだが、俺が見ているような検証も含まれるサイトやフォーラムは、「パソコン通信」と呼ばれたネット黎明期から生き残っている硬派も多いのだと教えてくれた。
それでも、3歳の甥っ子がipadでYoutubeをタップし、『アソパソマソ』を観ていたという実体験がある俺は、未就学児でも投稿できるような現代のサイバースペースはデマだらけなんじゃないかと反論してみた。
確かに玉石混交のネット世界で真実を見分けるのは難しいが、それでもテレビ報道や日本人以外が山ほど潜り込んでいるメディアに比べれば、体裁が整っていないだけで信頼に足る情報は多いと譲らなかった。
一般のニュースについては同意できる。
犯罪を犯しても本名が出たり出なかったり。
信頼すべき公共放送が英語版では、政府が認めていない“帝国軍時代の”戦争犯罪を公に認めていたりとやりたい放題だ。
知らない方がどうかしている。
それこそ“情弱”と揶揄される情報弱者でもない限り、こうした事はだいぶ知れ渡ってきていると信じたい。
「オカルトの類をクダラナイと一蹴して、ぜんぜん信じない人が多いのも事実だけどね」
彼女は少し寂しそうに言った。
「凸とかする勇者なんですか?」
「この店までは自転車。車には乗れないし、持ってないから凸なんか無理よ。どんなに行きたくてもね」
「へぇ…」
まるで条件が許すなら勇者組に入りたいと言わんばかりで驚いた。
「俺はべつに超常現象がないとか、オカルトなんて全部ウソだなんて言ってないですよ」
「ウソっぽいなぁって言ってたじゃない」
「そりゃ、この『さくおか』には信憑性の高いものがなかったってだけで…」
「じゃ、あなたが納得するような記事があったらどうする?」
「ハハハ、そんときゃ凸でも投稿でも付き合いますよ」
正直、無いと思っていた。
だから、彼女が自分の席から伝票を持ってきて、自分のノートPCを広げ、本格的に俺の席に移住した時も、暇にまかせてこれからPAまで行ってバナナ・オレでも飲みたいと思っていた事、夜のドライブが趣味だという事などをぼそぼそしゃべっていた。
彼女は適当に相づちを打ちながら、俺の母校を聞いてきた。
学生時代の地元なら、まるっきりのデマかどうかが分かりやすいでしょ? という彼女の気遣いだった。
(10)に続く
2018/03/06 初版
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