噂はあっという間に広まったようだ。
2年の山本がドエライ美少女に弁当を渡されていた。
どれだけ冷やかされたか分からない。
あからさまに敵意をむき出しにしている男子もいた。
「藤原先輩のみならず・・・」
廊下を歩けば、いつやっちまうかという物騒なヒソヒソ話が聞こえてくる有様だ。
生きた心地がしなかった。
いつものようにオフクロの弁当を早弁したオレは、昼休みになって静ちゃんが作ってくれた弁当を開けることにした。
購買でチョココロネを買ってきた小野がオレの前の席に座った。
「聞いたぞ〜山本」
「そりゃ、こんだけ噂されれば、耳にも入るだろうよ」
休み時間になる度に、担任、生活指導、学年主任に呼び出されたオレは、昼休みまでロクに小野と話しも出来なかったのだ。
他校の女子生徒と朝から校門前でイチャチャしていたのは本当か。
暴走族もかくやというイカレた車に乗っている人物と付き合いがあるのは本当か。
根掘り葉掘り聞かれたが、オレは同じ事を説明した。
隣に住んでいる幼なじみが弁当を持ってきてくれただけで、彼女は車で通学をしており、運転手さんがかなりうるさい車を用意してしまった・・・などなど。
騒ぎになってしまったのはすみませんと頭を下げると、どの先生も納得してくれた。
生活指導の先生など、
「ぶっへっへ、青春だな、おい」
と、冷やかしながら、バンバン背中を叩いてきた。
一体、いくつのモミジが背中に付いてることやら・・・。
「ずいぶん疲れてるな?」
「ま、まあな・・・」
小野が心配してくれる。
「すると、あの噂は本当なんだな」
「ん? まあね・・・」
「そうか・・・現役暴走族でアイドルやってる新妻がいて、その父親がキレて校門前でマシンガンを撃ったって話は事実だったのか・・・」
「なっ!」
ち、違う!
断じて違うぞ!
誰だ、そんなシュールな噂をバラまいている奴は!!
「それじゃ、ナイスミドルなおじさまとお前がデキてて、ヤンデレなお前の奥さんが嫉妬して昨夜未明、ネクタイのようなもので殺害を・・・」
「オレ、生きてんじゃん!」
「あ、そっか」
そっかじゃねえよ!
腐女子だな!?
さりげなくやおいネタを盛り込みやがって・・・。
つーか、オレが妻帯者になってるのは決定事項なのか?
「そかそか、安心したよ。お前がそんなハードな生活してるわけないもんなあ」
「当たり前だろ、まったく・・・」
その時、派手な音を立てて、ドアが開いた。
藤原先輩が息を切らせて、こちらに真っ直ぐ歩いてくる。
教室の皆も静まりかえって、先輩の姿を追っていた。
「山本くん、暴力団の女に手を出して撃たれたって本当なの!?」
そんなにいろいろバリエーションがあったんかい・・・。
オレは天井を見上げて唸るしかなかった。
(8)に続く
2012/05/29 初版
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