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学院騎士 サンガイオン (13)
大和武尊

 みょ〜んみょ〜んと緊張感のない音がして目が覚めた。
 身体がふわふわと宙を飛んでいたような感覚だった。

「お?」

 路上で目が覚めた。
 やっぱり夢だったんじゃないかと思う。
 突拍子がないにも程がある。
 あたりを見回すと切り落とされたネクタイが落ちていた。

 ・・・現実だったのか?

 うお!?
 やけに腹がスースーすると思ったら、制服のシャツとブレザーが切れててヘソ出しルックになっていた。
 近くにはリムジンもあった。
 静ちゃんの送迎に使われる、一緒に乗ってきた車だ。
 間違いない。

 それが証拠にボンネットの上には蘇我さんが仰向けになって気を失っていた。
 道路には大量の血痕もある。
 ・・・これって、けっこう吹き出したんじゃないか?
 少しフラフラするのは貧血気味なのかもしれない。

「はぁぁぁ」

 ため息しか出ない。
 学院を守れって言われてもなぁ・・・静ちゃんは守りたいけどさ。
 しかもマイナスイオンが出てるミサンガって・・・。
 一応、手首に巻くけどさ!
 イオン出てるし!

 ってか変身後は本当にカッコイイんだろうな。
 ドレッドヘアに腰蓑&巨大な三角錐とかじゃないだろうな!?
 特殊装甲がペ○スケースだったら、さすがに宇宙船まで行って殴るゾ。
 ま、まあ銀河刑事って言ってたし・・・信じるか。

 それより名前とか変身する時とかどうするよ?
 オレ、熱い人じゃないしなぁ・・・。
 自分で決めるとか恥ずかしいじゃないか。

「早く運び出せ。気絶してる今のウチだ」

 あ、奴らの声だ!
 赤ローブの能面野郎が4人いる。
 静ちゃんを連れ去ろうとしているのか!?

「愚かな女だ。普通の学院生活を送っていればいいものを・・・」
「洗脳で発狂する者も多いが・・・」
「発狂したら、適当な怪人にするか、旧支配者への生け贄にするだけだろう」

 な、なんだって!?
 めっちゃ可愛い怪人になっちゃうじゃん!
 ってか、怪人になって現れたら、倒すのオレだし。
 くそぅ・・・静ちゃんが、静ちゃんが・・・。
 だ、だめだ。
 日本刀で斬られた時の感触が蘇ってきた。
 恐い!
 恐すぎる!

 えーと、何だ。
 マイナスイオンが出てるミサンガだろ。
 引きちぎるんだよな?
 落ち着け、オレ!
 落ち着け落ち着け。
 ミサンガからイオンが出てるのをちぎる。
 ただそれだけ。
 えーと、名前とポーズと・・・えーと、えーと・・・。

「車から女を出した。ジジイと車はさっきのガキの死体と一緒にスクラップ工場でぺしゃんこにしておけ」
「学院に通わせられるだけの家だ。すぐに車も運転手も代わりを用意できるだろうしな」
「しかし、気を失っている人間は、小娘でも意外に重いな」
「早く抱えろ」

 あぁ、静ちゃんと蘇我さんが・・・。
 くそぅ・・・。
 くそぅっ!
 手も膝も震えちまって・・・。

 大王も皇帝もチャップリンのそっくりさんもこんなに恐い思いをしたんだろうか。
 奥歯をもらったサシバリオンも?
 オレがチキンなだけか?
 どうしようもなく臆病なオレが・・・ハッ!?
 ・・・差し歯って。

<誤りを正す力有する者、其れを以て真の義を成すべし。刃を以て邪を絶たん、全ては民の為に>

 じいちゃん・・・あんたは・・・。
 そういう事だったのか。

「よし、早く行くぞ」
「待てっ!」
「なっ!?」
「その娘を離せ!」
「キ、キサマ、まっぷたつにしたはずなのに・・・バケモノか!」

 能面で表情はよく分からないが、4人とも驚いているようだ。
 それもそうだろう。
 オレは完全に斬り殺されたんだから。
 とっくに死んだと思っていた人間が、車の影から飛び出してピピタァ! と指さしてくれば、誰でもビビるに違いない。
 静ちゃんを離して、身構える4人。

「う、うぅ〜ん・・・」
「お嬢様、よくご無事で」
「あ! 蘇我さ・・・」
「シィ〜、車の影へ隠れましょう」

 なるほどなるほど、奇怪なローブに表情の見えない能面。
 不気味な演出で行動のアドバンテージを取っているわけか。
 恐怖に身がすくんでいては、何の力も出せないのが人間ってもんだ。

 フッ・・・。
 今なら分かるよ、じいちゃん。
 あのメモの意味。
 間違った事が行われようとしている時、それを正す能力のある者は本当の正義を示せ。
 邪悪な行いを力で絶て、善良な人々の為に!

 そうだよな?

「たしかにお前達は荒事のプロかもしれない。人を殺してでも、何もかもをうまく進めてきたのかもしれない」
「ぐ・・・」
「だがな・・・1つだけ、間違いを犯したぜ」

 今度は4人ともローブの中に隠していた太刀を抜いた。
 よく切れそうだ。
 朝日を反射して、ギラギラ輝いている。
 さっきまでのオレならしっこちびったかもしれない。

「間違い・・・だと?」

 ああ、たった1つだけだがな。

「それはな・・・オレのハートに火をつけちまったって事さ!」
「黙って聞いていれば、時代錯誤な世迷い言を! 貴様、何者だ!!」
「この世の悪にハイパーパンチ! 冷めた時代がオレを呼ぶ・・・」

 ピピタァァァァ!
 フッ・・・決まったぜ。
 カッチョイイ感じで人差し指を突き付けた。

「ええい、今度こそ斬り殺してやる! かかれっ!」

 ヤバイ、躍りかかってきた!
 えーとえーと・・・や、や、やるしかないぜっ!!

「ウィッシュセット!」

 ぶちっ!
 シャキィィィィィン!
 ピカアアアアァァァァァァァァッ!

「な、なんだこの光はっ!」
「きゃぁぁぁ! た、タケルくん!?」
「や、山本様が・・・」

 説明せねばなるまい!
 ごく普通の高校生、山本タケルは変身したいと強く願いながらミサンガを引きちぎると、学院騎士(ミ)サンガイオンに変身する!
 力は通常の10倍、戦車の砲弾も跳ね返すこの特殊装甲は、タケルの願いを聞いたとある旧支配者が受理し、当局の担当者が最優先で手配するとタカマガハラ号にいるゴントが光の速さでタケルに送る事で変身は完了。
 ミサンガを引きちぎってから変身まで、事務処理が滞らなければ約0.505秒。
 特殊装甲で作られたバトルスーツを光速でぶつけるとタケルがバラバラになるので、装着寸前に速度ゼロまで急減速することでエネルギーの約95%を使ってしまう事から、サンガイオンは40秒〜3時間ぐらい(宇宙船と変身したがった場所の距離で異なる)活動可能なのだ!!

「スクールナイト サンガイオン参上! とおっ!!」

 こ、これが特殊装甲かっ!
 なんかスゴい気がする!!
 「とお!」って言いながらジャンプしたら、軽く奴らを飛び越してしまった。
 身体を動かそうとした方向へ、電動パワーアシストでもされる感じで、装甲の重さを感じないのだ。
 ヘルメットの中は様々な敵のデータや、建物のサイズなどが瞬時に表示されるようだ。
 謎の言語で表示されてるのでまったく読めないけど・・・。

 か、勝てないかもしれないけど、負ける気はしないぞ。
 これなら2人を守れるかもしれない。

「サンガイオンだと? ワケの分からん事を・・・」
「死ね、愚民がぁぁぁぁぁ」

 ビュッ!!
 振り返りざまに斬りかかってくる赤ローブの男。
 オレはガッチリと両手で握った太刀の柄を、手ごと掴んでいた。

 パキーーーーン!

 次いで横から斬りつけられた刃を腕で受け止める。
 日本刀の刃が折れたようだ。
 スゴイ!
 スゴイよ、このバトルスーツ。
 ひょっとしたら腕が切り落とされてるかと思ったんだけど、ちゃんと受け止められた。

「ぬんっ!」

 そのままの姿勢で腕を振り払うと、日本刀を折られた男が何メートルも先に吹っ飛んだ。
 ぐったりして動かなくなる。
 大丈夫だろうか?
 頭でも打ってないだろうか。
 ヘルメットの謎機能が作動して、よく見たいと思った所がアップで映し出される。
 良かった、息はしているようだ。

 手を握ってる奴は、唖然として突っ立っている残り2人のうちの1人に投げつける。
 片手で男を持ち上げて投げることが出来るなんて!
 2人まとめて、もんどり打って転がった。
 がっくりと気を失ったのを確認して、次の相手に向き直る。

 残るは1人。
 赤いローブなので見えにくいが、袖口に少し血が付いている奴だ。
 たぶん、オレを斬った奴だろう。

「き、貴様ああああああああっ!」

 普段のオレなら、それだけで萎縮してしまいそうな雄叫びをあげて日本刀を突き込んできた。
 刺し殺す気だ。

 ガシッ!

「ぐ・・・く・・・」
「・・・」

 喉もとに触れる前に、オレは切っ先を掴んでいた。
 手も指も切れていない。
 相手は柄を捻っているようだが、切っ先はぴくりとも動かせないようだった。

「さっきから気になってたんだ」
「な、なんだ・・・言え」
「攻撃する前に何かしゃべるのやめた方がいい」
「くっ!?」
「脳が2つ以上ない限り、指令系統は1つなので、しゃべろうとすれば攻撃動作は遅くなる。先週、保健の授業で習ったんだ」
「この・・・忘れんぞ、サ、サンガイオン・・・」

 わーお♪
 サンガイオン!?
 マジで?
 もう認知された♪

 一瞬の隙をついて、能面野郎が刀から手を離し、ローブを広げた。
 爆弾のようなものが見えたような、見えなかったような・・・。
 距離を取った赤ローブの手には手榴弾のようなものが握られていた。

 シュピーン

「ふ、ふははは、この爆発に耐えられるか?」

 こいつ安全ピンを抜いたー!?
 どこまでイカレてんだよ。
 爆発したら静ちゃんと蘇我さんにも破片が・・・よしっ。

「マグナムキーーーーック!」

 自分で言った忠告を正面から無視して、とりあえず叫ぶ。
 どうせ、ただの蹴りだしね・・・。

 ピッピッ
<Magnum Kick / Target Lock OK... Boost on>

 何だ?
 妙なメッセージがヘルメットの中に出てるんだけど・・・

 ガシャッ! バシュ! カラララララララ・・・・

 おいおいおいおい、なんかふくらはぎの後ろ辺りで装甲が動いてるよ。
 何なんだ?
 何が起きるんだ?
 ハム音がするんですけど!
 ひゅいぃいぃぃぃんとか言ってるんですけどおおお!?

 ドパン! ドパン!

 ちょ! 左足からスパイクアンカーが出て、アスファルトの路面に2本ほど打ち込んだ!?
 歩けないじゃん!
 え?
 これってただの蹴りっしょ?

 ドヒュっ!!

「ぶぎゃっ」

 えええええええええ!?
 右足の踵からジェット噴射が出て蹴ったし!
 相手、飛んでっちゃってるしぃぃぃぃぃ!!

「旧支配者様に栄光あれぇぇぇぇ」

 ドゴーーーーーーーーン!

 ちょっとおおおおおお!
 飛んでった上に爆弾が破裂したじゃんよぉぉ・・・。
 これって思いっきり固定式の必殺技じゃないか。

 ピッピッ
<生体反応アリ>

 お、またヘルメット内に表示された。
 これって英語も日本語も出るのか。
 全部、日本語にしてくれないかな。
 ま、まあいいや。
 どこだ?
 まだ敵が・・・。

「す、すごい・・・あっと言う間に・・・」
「お見事過ぎでございますな・・・」

 あ!
 そうか、あの2人だ。
 良かった・・・助ける事が出来たんだ。
 4人もヘンな奴を相手にしたし、ケンカなんかしたことなかったから、へたり込みそうだよ。

 そ、そうだ!
 こんな事してられないって。
 正義の味方は正体を明かせない。
 あくまでも、普段は普通の人じゃないといけない。
 あんまり格好良くない変身だし・・・。
 よ、よし、姿を消そう。

「悪は潰えたか・・・フッ・・・サンガイオンがいる限り、悪が栄えることはないのだ」

 お、何か適当につぶやいたら、ヘルメットの外にマシンヴォイスに変換されたオレの声が出てる気がする。
 車の陰から2人が出てきそうだ。
 安全になったと分かったっぽいな。
 ・・・では、退散しますかね〜っと。

「とうっ!」

 バシュウウウウウウウッ!

「ぎゃああああああああああああああああああああ」

 なんでこんな時に足裏からロケット噴射しやがるんだぁぁぁぁぁ。
 ヤバイって!
 すごい高度!
 町並みが航空写真みたいに見えるお!
 引きまくったグーグノレアースみたいだお!!
 ちょ!
 あの!!


(14)に続く

2013/02/12 初版

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