ドスファンゴとまだ気絶しているリーダーを、ガーグァ2羽で引く大型荷車に固定し、荷台の横にはエミリアが腰掛けた。
あとは出発するだけになっている。
すぐ目の前にはアイルーが立っており、一緒にディックスを見上げていた。
「ベースキャンプの場所を御者に伝えてくれ。“いつもの場所”なら、特に言わなくていいそうだ」
「いろいろとありがとう」
「ダンニャサン、いろいろとありがとうニャ」
アイルーもぺこりとお辞儀した。
「アイルー、夢は捨てるなよ」
「はいニャ♪」
「助かったよ、きっと良いお供アイルーになれる」
ディックスは、アイルーの小さな手を握って握手した。
「射手」
「エミリア」
「じゃあ、エミリア。弾切れには注意しろ。捕獲用麻酔弾に弾倉交換する前、ボルトが開いていた。それさえ気をつければ、間違いなく名射手だ」
「肝に銘じとくわ」
ディックスは御者台に向かって叫んだ。
「行ってくれ!」
ギルド御用達の御者が手綱でグァーガを促すと、荷車がゆっくり動き出す。
「またな」
ディックスが背を向けて、元来た吊り橋に向かって歩き出した。
荷物を取りに戻るのだろう。
その後はまたユクモ村へと向かうはずだった。
振り返る様子はなかった。
少しずつ動き出す荷車の上から、エミリアがアイルーに声を掛ける。
「一緒に行かなくていいの?」
「・・・」
さっきの物言いだと、同じ方向に帰るはずだ。
だが、アイルーは動かなかった。
ぶるぶると肩を奮わせ、ただただディックスの後ろ姿を見ていた。
平然とお別れをしたように見えたが、無理に我慢していたのだろう。
「ネコちゃん?」
横顔が見える所まで荷車が移動すると、アイルーは大粒の涙をぽろぽろと流していた。
缶をぎゅーっと抱きしめて。
(まったく・・・)
「フニャっ!?」
腕を伸ばして小柄な身体を引っ張り上げる。
アイルーはエミリアの膝の上へと収まっていた。
「な、何をするのニャ?」
「無賃乗車」
「そんなのダメニャ!」
「いいから! 名案があるの」
顔を涙でぐしゃぐしゃにしたアイルーに向かって、名射手はウィンクした。
(13)に続く
2013/07/30 初版
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