奇妙な会社を見つけたのは、再就職に疲れ腐りきっていた頃だから、就職活動を始めて1カ月を過ぎたあたりだろうか。
ズラズラと面接の時には覚えて来いと言わんばかりの会社説明がなく、ただ一行、
「総合企業」
とだけ書かれていた。
連絡先には電話番号すらない。
住所とメールアドレスだけだった。
最低限、メールの送受信くらいは出来る人を求めてわざとそうしているのか?
求人担当がほとんど何も書かないで登録してしまったおっちょこちょいなのか?
判断がつかなかったがハローワークの職員に聞いてみた。
「ああ、H.S.K.株式会社さんね。これ以上、書いてくれなくて困ってるんだよ。雇う気があるんだかないんだか・・・」
どうやら難アリってところらしい。
そもそも月給がいくらかすらわからん。
連絡をとろうか?と職員が言ってくれたのでお願いすることにした。
目の前で何やら電話をしていると、不意に受話器を手で押さえた。
「君はかなり入れ込んでる趣味とかある?」
経験だの資格だのを聞かれたことはあったが、これを聞かれたことはなかったので面喰った。
それに企業の詳細を聞きたかっただけなのに、担当してくれたハロワの職員さんが突然、面接官になったかのようだ。
いろいろと破天荒な企業であるらしいことはわかった。
こちらも腹をくくった方が良いだろう。
「お恥ずかしい話ですが、この年でまだトイガンに興味があります」
「トイガン?」
「おもちゃの銃ですよ。エアーガンとか・・・空気銃とかああいうやつです」
「ああ、なるほどね」
年配の職員でも分かるように空気銃と言ったら通じた。
実はガンマニアで給料日の前の週には専門誌を、給料日にはエアガンやらモデルガンやらを買うのが唯一の楽しみだった。
寂しい男だと思われても仕方ないし慣れてる。
オタクだと言うならそう思うがいいさ。
せめてヲタクって言ってほしいがね。
もっともマニアと言っても、部屋に飾るような趣味はないし、分解して整備し組み立ててはそこらにほっぽっておくだけのにわかガンマニアだ。
この業界も奥は深いらしい。
実銃と同じガンオイルで整備し、クロスでピカピカに磨いて、壁にかけたり、トランクに入れたり・・・気合いの入った連中は海外のシューティングツアーにまで参加するっていうんだから、俺がガンマニアと名乗ったらマニア達に怒られるかもしれない。
「はいはい、ええ、そうですか・・・」
誰に笑われたわけでもオタク呼ばわりされたわけでもないのに、勝手に憤ったりマニア共の底なし加減について考えたりしていると電話が終わった。
「メールを送ってほしいそうだよ。返信を見たら会社に来てほしいって。いつでも良いそうだよ。決まるといいね」
親切な職員さんにお礼を言って、携帯電話からメールを送った。
自前のパソコンも持ってはいるが、家に帰る前にすぐに送りたかった。
返信はすぐに来た。
一行だった。
(4)に続く
2010/07/31 初版
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