『やよいちゃんと地方健康ランドのお仕事』
絶賛お仕事募集中のFランクアイドルなやよいちゃん。
今日のお仕事は、地方にある健康ランドで営業です。
本来は駐車場にある特設ステージでのミニライブの裏方がメインです。
Fランクなんてそんなもんです。
事務所にいる先輩アイドル達のグッズ販売の売り子もやるはずだったのですが、あいにくの大雨です。
ウチの一押し看板アイドル天海春香さんには、先輩Pと共に先に戻っていただきました。
さすがはCランクアイドルです。
どんなに降っていても雨粒ひとつ付かずにロケバスでご退場ですよ。
ちなみにやよいちゃんとオレは電車で来ましたけどね。
それはともかく、健康ランドの支配人には頭を下げられっぱなしですが、天気なんだから仕方ないです。
ってかまぶしいです、支配人さん。
もう雪目になりそうです。
ロビーの一角でもお借りして、物販をさせていただければと思い、さっそく交渉に入るあたり、オレもプロデューサー業に慣れてきました。
【支配人】
「うーん、せっかくアイドルの天海春香さんに来ていただいたのに、イベントが中止になってしまって申し訳ないです。地元の商店街の皆さんも残念がっていますよ」
【P】
「いえいえ、こちらこそギャラをいただいたのに何も出来ずに・・・」
【支配人】
「そうだ、大広間で良ければ・・・って、天海さんはもう戻られたんですよね」
来た来た。
この展開を待っていましたよ、支配人さん。
【P】
「まだ新人ですが、将来有望にして次期トップアイドル(予定)の子が1人残ってますんで、歌わせてもらっていいですか?」
【支配人】
「カラオケセットで良ければ、是非、お願いします。実はけっこうな数のお客様が集まってしまっていたので」
ビッグチャンスです。
まだ持ち歌はないけれど、人前で歌う経験はアイドルとして貴重なものです。
【P】
「やよい、喜べ! 大広間で歌う許可をもらったぞ。春香さんの曲ならいけるだろ?」
【やよい】
「ホントですかっ!? ファンの前で歌わせてもらえるんですか。やったーっ! がんばりますぅ」
まあ、やよいファンってのはほとんどいないだろうが細かいことは言うまい。
【やよい】
「あ・・・」
ドエラい喜びようだったというのに、次の瞬間には一転して困った表情に。
【P】
「どうした?」
【やよい】
「うっうー、実は・・・」
聞けば裏方&売り子の仕事だったので、油断して穴の開いた靴下を履いてきてしまったようです。
屋外ではなく、畳の大広間では靴を履いて歌うわけにはいきません。
知名度もあるアイドルで、持ち歌用のコスチュームがブーツなんかだと、畳の上にシートでも敷いてもらえる・・・ってか畳の上で歌を披露するような営業がそもそもありませんが・・・。
【P】
「やよいちゃん・・・アイドルとして穴開き靴下はマズイと思うよ」
【やよい】
「うっうー、このところの雨でお洗濯ものが乾かなかったんですよ〜」
【P】
「それにしたって穴開き・・・」
【やよい】
「この靴下しか残ってなかったんですぅ」
【P】
「かくなる上は仕方あるまい。近くのコンビニで無難な靴下を買ってくるからちょっと待ってな」
そう言って、雨の中を猛ダッシュ。
ま、これも仕事ですよ。
テレビ局じゃないからADさんもいないしね。
ステージにも無事に間に合って、可愛い花柄の靴下をプレゼントすることができました。
決して無難な靴下じゃないあたりがオレ的クォリティーですよ♪
しかも、オレの手元にはやよいちゃんの穴開き靴下がっ!!
何というハッピー!
何という幸運!
何というHAPPY!
大事なことなので3回言いますた。
雨で少し湿った靴下からは、カワイイやよたんからは想像もできないような酸っぱいかほりが・・・。
だが、それがイイっ!
こっそりとトイレに駆け込んで、ちょっと黒く浸みた靴下を顔の上に乗せてみましたYO!
【P】
「ハアハア、やよたんもっと踏んでぇぇ〜〜〜〜〜」
心の中で絶叫しながら幸せな時間を過ごすことが出来ました♪
色々、付着してもうたので、さすがにその靴下は捨てたけれど、やっぱりもったいなかったなぁ〜と、夜に後悔しました。
まさかフィニッシュ直前に顔から落ちるとは思わなかったんだよぉぉぉぉぉぉ。
3話に続く
2011/02/24 初版
2011/07/17 第二版
2011/08/18 『にじファン』に転載
→『にじファン』サービス終了(2012/07)
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